納期遵守率の計算式と調達部門における納期遵守率の改善のポイントとは

納期遵守率は、調達部門における重要な評価指標です。正しく把握・改善しなければ、供給トラブルや信頼低下につながります。この記事では、納期遵守率の種類や計算方法、遅延の原因、調達部門が取るべき具体策について解説します。安定的なサプライチェーンの構築に向けた参考になれば幸いです。

納期遵守率とは

納期遵守率とは、発注に対して納期通りに納品された割合を示す指標です。サプライヤーの信頼性や調達プロセスの健全性を、数値で可視化するために用いられます。この章では、納期遵守率の定義や計算方法、「納期遅れ」と「発注遅れ」の違いについて解説します。

納期遵守率の種類

納期遵守率には、「回答納期遵守率」と「要望納期遵守率」の2つがあります。それぞれの違いを理解し、正しく使い分けることが、納期改善の第一歩です。

回答納期遵守率とは、サプライヤーが回答した納期に対し、実際に納入された比率を示します。

【回答納期遵守率】

・目標値は99.9%など、限りなく100%に近い

・遵守されなければ、買い手企業での部品欠品による生産ライン停止が起こり得る

・守れない要因は、生産能力不足・他の重要顧客の優先度が高い

・課題があれば、買い手企業が改善支援や設計仕様を見直す

要望納期遵守率(指定納期遵守率)は、買い手企業が指定した納期に対し、納入された比率です。

【要望納期遵守率(指定納期遵守率)】

・買い手が重要顧客であれば、特急対応が可能なケースがある

・無理な要求を続けると、取引を断られるリスクが高まる

・指標が悪化した場合は、買い手企業の発注方法や社内フローの見直しが必要

・買い手企業の購買部門には、社内調整力が求められる

いずれの指標でも、定義や評価ルールを明確にしなければ、納期遵守率を正しく計算できません。以下のような項目を明確にし、サプライヤーと共有しておくことで、トラブルを未然に防げます。

・前納を達成とみなすかどうか

・分納時の扱いと、達成率の計算方法

・注文書に複数品目がある場合の評価基準

・リードタイムの起算日や日数のカウント方法(稼働日/暦日)

・特急品の定義と評価方法

納期遵守率は、サプライヤーと買い手企業の納期意識を高める有効な指標です。両指標の違いを理解し、評価ルールを明確にすることで、納期改善の精度が向上します。

納期遵守率の計算式

納期遵守率を正確に把握するには、計算式を理解することが重要です。定義が曖昧なままでは、正しい評価や改善につながりません。

基本的な納期遵守率の計算式は、以下のとおりです。

 

・納期遵守率 = 納期通りに納入された数 ÷ 発注数

 

この式をもとに、「回答納期遵守率」と「要望納期遵守率」に分けて整理します。

【回答納期遵守率】

 

・回答納期遵守率 = 回答納期通りに納入された数 ÷ 発注数

 

この指標は、サプライヤーが自ら回答した納期をどれだけ守れたかを測定するものです。サプライヤーの生産計画や納期管理能力の評価に活用されます。

【要望納期遵守率(指定納期遵守率)】

 

・要望納期遵守率 = 発注時に指定した納期通りに納入された数 ÷ 発注数

 

こちらは、買い手企業が希望した納期に対して、実際に納入された比率を示します。無理な納期が続けば、サプライヤーに敬遠される可能性があるため、発注側にも調整力が求められます。

納期遵守率は、「回答ベース」と「要望ベース」で意味が異なります。指標の定義を明確にし、それぞれを分けて管理することが、トラブル防止と納期改善のポイントです。

納期遅れと発注遅れの違い

納期に関するトラブルは、買い手企業とサプライヤーの間で頻発します。その中でも「納期遅れ」と「発注遅れ」は意味が異なるため、正しく認識することが重要です。

それぞれの定義は、以下のとおりです。

 

・納期遅れ:合意された納期に対し、サプライヤーが納入できなかったケース。

 例:十分なリードタイムがあったにもかかわらず、サプライヤー側の製造トラブルで納入が遅れた。

・発注遅れ:買い手企業の発注が遅れ、リードタイムが確保できなかったケース。

 例:希望納期に対し発注が遅れたため、サプライヤーが対応できなかった。

納期遅れか発注遅れかを判断するには、以下の3点を確認します。

 

        1. サプライヤーが提示したリードタイム
        2. 買い手企業の発注日(注文書発行日)
        3. 注文書に記載された納入日

 

具体的な納期遅れの判断方法は、以下のとおりです。

納期遅れと発注遅れの違いについて図式化して説明
書籍「図解入門ビジネス 最新 調達・購買の基本とコスト削減がよ~くわかる本」を参考に弊社で作成

・納期遅れ:納入日 − 発注日 ≧ リードタイム

・発注遅れ:納入日 − 発注日 < リードタイム

納期遅れと発注遅れは意味が異なり、混同すると根本原因の解決に至りません。どちらの事象かを正しく見極めることが、適切な改善策の実行につながります。

サプライヤーの納期遵守率を改善する方法

納期遵守率を改善するには、原因を正確に把握し、適切な対策を取ることが不可欠です。サプライヤー側の課題に加え、自社の発注方法も見直し、双方での改善が求められます。この章では、納期遅れが発生する原因と対処法を詳しく解説していきます。

回答納期に対して納期遅れが発生する原因

サプライヤーが回答した納期に対し、実際の納入が遅れる原因は、サプライヤー側の生産体制の課題と、買い手企業の優先順位の低さにあります。

まず、サプライヤーの生産ラインのトラブルにより、リードタイムが安定しない要因は以下のとおりです。

・設備の老朽化や故障により、計画外の停止が発生する
・熟練作業者の不足や教育不十分により、生産効率が低下する
・急な仕様変更や追加注文への対応が困難である

これらの要因により、計画通りの生産が難しくなり、結果として回答納期に間に合わないケースが生じます。

次に、サプライヤーにとって自社の優先順位が低く、他社に比べて対応が後回しにされることも要因のひとつです。

・自社の取引量や金額が他社より少なく、交渉力が弱い
・過去の取引で、サプライヤーからの評価が低い
・サプライヤーから戦略的に重要な顧客と見なされていない
・担当者間のコミュニケーション不足により、関係構築が不十分である

納期遅れを防ぐには、単なる進捗管理では不十分です。サプライヤーとの信頼関係を築き、継続的な協力体制の強化に取り組むことが不可欠です。

要望納期に対して納期遅れが発生する原因

要望納期の遅延原因は、買い手企業の希望納期がサプライヤーの標準リードタイムより短い、いわゆる発注遅れの場合が多いです。要因を正しく分析し、調達プロセス全体を見直すことが、納期遵守率の向上に直結します。

 

サプライヤーの実力値(生産から納入までの所要日数)よりも短い納期を設定すると、物理的に納期に間に合わないケースが発生します。主な要因は以下のとおりです。

        1. 見積もりや社内承認に時間がかかり、発注が遅れる
          ⇒ 承認フローや価格交渉に時間を要し、要望納期までのリードタイムが不足する。

        2. 図面や仕様の変更による再調整が発生する
          ⇒ 仕様確定の遅れにより、発注時点で納期に間に合わなくなる。

        3. 発注頻度やロットが少なく、製造計画に組み込まれにくい
          ⇒ 小ロット・低利益案件は優先度が下がり、後回しにされがち。

        4. 事前の納期交渉やスケジュール調整が不十分
          ⇒ 一方的に要望納期だけを伝えても、サプライヤー側の体制が整っていない場合がある。

納期遵守率を高めるには、買い手企業がプロセスの起点を整え、実現可能な納期を設定する姿勢が重要です。

調達・購買部門が納期遅れに対して検討すべき打ち手

納期遅れへの対応には、調達・購買部門による戦略的な打ち手が必要です。「回答納期遅れ」と「要望納期遅れ」双方に対して、適切な改善策を講じることで、納期遵守率の向上が期待できます。

 

回答納期遅れへの打ち手は、以下のとおりです。

〈サプライヤーの生産体制強化支援〉

        1. 設備メンテナンスの実施状況や計画を定期的に確認し、改善提案を行う
        2. 生産性向上のため、技術指導や研修プログラムをサプライヤーと共同で実施する
        3. 改善が見込めない場合は、代替サプライヤーへ発注を検討する

〈サプライヤーとの関係性強化〉

        1. 定期的なコミュニケーションで相互理解を促進し、信頼関係を深める
        2. 経営層との関係構築や戦略的なパートナーシップの締結を目指す
        3. 発注量の安定化や長期的な取引計画を提示し、自社の重要度を高める
        4. 迅速な支払いなど、協力的な姿勢を通じて、サプライヤー側から自社に対する評価向上を図る

次に、要望納期遅れへの打ち手は、以下になります。

〈リードタイムの正確な把握と共有〉

        1. サプライヤーの標準リードタイムを明確化し、社内に周知徹底する
        2. 各サプライヤーのリードタイムに応じた発注スケジュールを策定する

〈調達プロセスの最適化〉

        1. 見積もり・回答取得プロセスを迅速化する。詳しくはこちらの記事をご参照ください。
        2. 社内承認フローを簡略化し、意思決定のスピードを上げる
        3. 価格交渉プロセスの効率化と早期決着を図る

〈設計・仕様確定の早期化〉

        1. コンカレントエンジニアリングを導入し、仕様の早期確定を進める。詳しくはこちらの記事で解説しています。
        2. 設計変更の影響範囲とリードタイムへの影響を早期に評価する
        3. 標準化を進め、設計変更自体を抑制する

〈発注ロットと頻度の見直し〉

        1. サプライヤーの生産効率を考慮した発注ロットを検討する
        2. 定期発注により、製造スケジュールへの組み込みやすさを向上させる
        3. 長期需要予測に基づいた発注計画を策定する

〈サプライヤーとの事前交渉とスケジューリング〉

        1. 要望納期を実現するため、サプライヤーとの早期協議と合意形成を図る
        2. サプライヤーの生産能力や負荷状況を事前確認し、リスクの少ないスケジューリングを行う
        3. 必要に応じて、生産ラインの確保や増強を交渉する

 

こうした多面的な取り組みを継続的に実行することで、納期の安定と供給体制の信頼性確保につながります。

供給リスクを低減するために調達・購買部門が取り組むべきこと

供給リスクを低減するための根本対策は、サプライチェーン全体を見渡す視点と、将来を見据えた体制にあります。ここでは、調達・購買部門が中長期的に取り組むべき施策を紹介します。

サプライチェーンの可視化

納納期遵守率を高めるには、サプライチェーン全体を可視化し、リスクの発生源を事前に特定することが重要です。特に納期遅延や供給停止は、一次サプライヤー(Tier1)ではなく、二次・三次サプライヤー(Tier2、Tier3)で起こるケースが少なくありません。

 

たとえば、原材料の供給元や外注先のトラブルが発生すると、Tier1では対応しきれず、納期が遅れるリスクが高まります。

 

このような事態を防ぐために、調達・購買部門には以下のような対応が求められます。

・Tier1と連携し、Tier2以下のサプライヤー構成を把握する

・特定素材・設備・地域への依存状況を明確にする

・各層のリードタイムや製造・輸送能力を把握する

・災害、地政学リスク、設備トラブルなど、潜在的リスクを洗い出す

こうした情報をもとに、ボトルネック工程や高リスクなプロセスを事前に把握すれば、代替手段の検討や安全在庫の確保といった対策が講じられます。

 

さらに、サプライチェーンを“点”ではなく“線”として捉える視点が重要です。関係者間でリスクの認識を共有でき、計画的なリスク管理が可能となります。

積極的なサプライヤー開拓の実施

納期リスクを低減するには、既存サプライヤーの改善だけでなく、新規サプライヤーの開拓も不可欠です。安定供給の確保やリスク分散を図るうえで、調達・購買部門による戦略的なソーシング活動が求められます。

 

新規サプライヤーを事前に評価・認定しておけば、供給トラブル時にも迅速に代替対応が可能です。さらに、既存取引先に対しても定期的な評価を実施することで、適度な緊張感と信頼関係の維持につながります。

 

新規サプライヤーの探索手段としては、以下が挙げられます。

・商工会や業界団体への参加

・展示会や商談会での情報収集

・調査会社・商社・金融機関とのネットワーク活用

・オンラインのマッチングサービスの利用

これらの取り組みにより、納期の安定化だけでなく、コスト削減や競争力の強化も期待できます。特に展示会では、事前に目的や選定基準を明確にして情報を集め、終了後には社内で共有・整理すると効果的です。

 

調達部門は、常に複数の選択肢を持ち、状況に応じて柔軟に対応できる体制を構築すべきです。サプライヤー開拓は、単なるバックアップ策にとどまらず、事業成長を支える戦略のひとつといえます。


関連記事:調達・購買におけるソーシング活動とは?意味やパーチェシングとの違いを徹底解説

SRM(サプライヤー・リレーションシップ・マネジメント)の強化

納期遅延を根本的に解消するには、サプライヤーとの関係性を戦略的に管理するSRM(サプライヤー・リレーションシップ・マネジメント)の強化が重要です。SRMは、単なる取引管理ではなく、調達における中長期的なパートナーシップの構築を目的としています。

 

この手法は、品質・納期・コスト・リスク対応・技術力などの総合的な評価をもとに、重要な取引先との協力体制を強化するものです。

 

SRMの具体的な取り組みは、以下の通りです。

        1. サプライヤー評価の実施
          品質、納期、コスト、リスク対応力などを多面的に評価し、改善点を明確にする。

        2. サプライヤーのセグメンテーション
          評価結果に基づき、重要性やリスクに応じて分類し、管理方針を策定する。

        3. 戦略方針の立案と実行
          重要サプライヤーには共同開発や長期契約を提案し、取引量が少ないサプライヤーには価格交渉や契約を見直す。

たとえば、納期遅延が多いサプライヤーには改善計画の提出を求めつつ、代替サプライヤーの発掘を強化します。逆に信頼性の高い企業とは共同開発を進めるなど、関係性に応じたアプローチが有効です。

 

SRMの実践は、サプライチェーン全体の透明性と持続可能性を高め、限られたリソースの中でも最適な調達活動を実現する手段です。競争力のある供給網を構築するために、サプライヤーとの関係性を戦略的に見直していきましょう。

まとめ

納期遵守率の向上は、調達活動の信頼性を左右する重要な要素です。遅延の原因を正確に分析し、サプライヤーとの関係強化や調達プロセスの改善に取り組む必要があります。また、供給リスクを最小限に抑えるには、サプライチェーン全体の可視化や新規サプライヤー開拓も欠かせません。こうした一つひとつの改善の積み重ねが、結果として安定供給の基盤の構築につながります。

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A1A編集部
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