SRM(サプライヤー・リレーションシップ・マネジメント)とは?戦略的調達購買活動を実現するためのマネジメント手法を解説

サプライヤーとの関係性を戦略的に管理することは、競争の激しい市場環境において成功の鍵となります。本記事では、SRM(サプライヤー・リレーションシップ・マネジメント / Supplier Relationship Management)の基本的な概念から具体的な実践方法までを詳しく解説します。これにより、企業がどのようにしてサプライヤーとの協力を深化させ、持続可能な成長を実現するのかを理解できます。

SRMとは?

SRM(サプライヤー・リレーションシップ・マネジメント / Supplier Relationship Management)とは、サプライヤー(仕入先)との関係性を戦略的に管理する手法のことです。企業が調達活動を通じて競争力を高めるために、サプライヤーとの協力体制を強化し、長期的なパートナーシップを構築することを目指します。

 

SRMの意味

SRMは、SAPKPMGによるとサプライヤーとの関係を効果的に管理するための手法や戦略を指します。この管理手法は、企業がサプライヤーから最大限の価値を引き出し、長期的な協力関係を構築することを目的としています。

 

SRMは単なる取引関係を超えて、サプライヤーとの戦略的パートナーシップを構築することを目指します。このアプローチは、調達コストの最適化だけでなく、品質や納期の向上、新しいイノベーションの創出など、さまざまな価値を生み出します。

 

多くの企業は調達活動をコスト削減の手段として見なしていましたが、次第にサプライヤーとの協力関係の重要性が認識されるようになりました。特にグローバル化やデジタル化の進展に伴い、SRMは単なるコスト管理を超えた戦略的ツールとして位置づけられるようになりました。

 

現代のビジネス環境では、SRMは調達活動だけでなく、全社的な競争力向上のための重要な枠組みとなっています。企業はサプライヤーとの透明性を確保し、イノベーションを共同で推進するためにSRMを活用しています。

 

SRMの目的

書籍「Supplier Relationship Management: Unlocking the Hidden Value in Your Supply Base」によると、SRMの目的は3つの段階に分けられます。

書籍「Supplier Relationship Management: Unlocking the Hidden Value in Your Supply Base」をもとに弊社で作成
    1. 防御的(Protective)利益
    2. 利益生産的(Productive)利益
    3. 利益進歩的(Progressive)利益

第一段階目の目的は、サプライチェーン全体のリスクを管理し、調整を強化することで「防御的」な利益を得ることです。現代のビジネス環境では、自然災害、地政学的リスク、サプライヤーの倒産や品質問題など、供給リスクが高まっています。

 

こうしたリスクに対処するため、組織はサプライヤー群(企業が調達活動を行う際に取引関係を持つサプライヤー全体)に対して高い信頼性と安定性を求める必要があります。具体的には、サプライヤーの選定基準を厳格にし、継続的なモニタリングを行うことで、潜在的なリスクを未然に防ぐことが求められます。

 

第二段階目の目的は、業務の改善と効率性の向上を追求し、「生産的」な利益をもたらすことです。これは、コスト削減や品質向上、プロセスの効率化を通じて実現されます。例えば、サプライヤーとの共同プロジェクトを通じて製造工程を最適化し、不必要なコストを削減することが考えられます。

 

ただし、SRMの成功は単なるコスト削減にとどまりません。品質の向上や納期遵守の改善といった付加価値を創出することが本来の目的です。

 

さらに、組織には新しいアプローチを受け入れる柔軟性が必要です。たとえば、デジタルツールを活用したリアルタイムのデータ共有や、サプライヤーのパフォーマンスを測定するための評価システムの導入などが挙げられます。これにより、コスト削減の効果はもちろん、全体の効率性を向上させることが可能になります。間接的に生み出されるこれらの成果は、企業の競争力を大幅に強化します。

 

最後の第三段階目の目的は、「進歩的」な利益を得ることです。製造業では、サプライヤー群との連携を通じて、次のような具体的な成果を追求することがこの目的にあたります。

 

たとえば、自動車メーカーがSRMを活用して主要な部品サプライヤーと共同開発を行うケースを考えてみましょう。この取り組みでは、新しいエネルギー効率技術や軽量化素材を共同で研究開発することで、市場に競争力のある製品をタイムリーに投入できます。これにより、同業他社との差別化が図られ、顧客からの信頼を高めるだけでなく、企業ブランド価値の向上にもつながります。

 

また、進歩的な利益は、単に新製品の開発に限りません。たとえば、製造プロセスそのものの革新にもつながります。SRMを通じてサプライヤーと協力し、生産工程を最適化するための技術やアイデアを共有することで、全体のコスト削減や生産スピードの向上が期待できます。これにより、最終的には顧客に対する納期短縮や品質向上といった形での成果がもたらされます。

 

SRMは、企業戦略の解釈やリソースの優先順位を決定するための基盤を提供します。製造業においては、どの製品開発プロジェクトにリソースを集中するか、どのサプライヤーと深いパートナーシップを構築するかを適切に判断するための重要なツールです。

 

このように、防御的、生産的、進歩的な3つの目的を統合することで、サプライヤー群からの価値を最大化し、競争優位性を強化しながら持続可能な成長を実現することが可能となります。

 

SRMの重要性

SRMの重要性は、大きく以下の2つの観点から説明できます。

1. サプライヤーとのコラボレーションの効果

マッキンゼーの調査によると、サプライヤーとの関係性を深めることは企業の業績向上に直結します。以下のグラフは、製造業105社を対象とした調査結果であり、サプライヤーとの協力関係が業績に与える影響を示しています。このグラフからも分かる通り、適切なSRMを実施することで、コスト削減や品質改善だけでなく、新たな収益機会の創出にも寄与することが確認されています。

しかし、企業が全てのサプライヤーに同じリソースを投じることは現実的ではありません。品目やサプライヤーとの関係性によって、サプライヤーに求められる価値やアプローチが大きく異なるためです。

 

たとえば、原材料を供給する代替困難なサプライヤーは、安定供給や品質保証が最優先される一方で、MRO(保全・修理・運用)品を扱うサプライヤーには、コスト効率や短納期が重視されるケースが多くあります。

 

このように、各サプライヤーに求める価値が異なるため、バイヤーが取るべきアクションも異なります。例えば、代替困難なサプライヤーには長期的な契約や共同開発プロジェクトを通じた関係性の深化が重要ですが、MRO品のサプライヤーに対しては価格交渉や複数調達先の確保が求められる場合があります。

 

だからこそ、SRMを通じて、効率的かつ戦略的にサプライヤーとの関係性を構築することが必要不可欠です。リソースを適切に配分し、重点的に管理すべきサプライヤーを明確化することで、企業は供給の安定性と業績向上の両立を実現できます。

 

2. グローバル市場におけるSRMの意義

近年、グローバルサプライチェーンの複雑化が進む中で、SRMの役割はさらに重要になっています。たとえば、新興国のサプライヤーを活用することでコスト削減の機会を得られる一方で、現地の法規制やリスクへの対応が課題となります。また、気候変動やパンデミックといった世界的な課題への対応も、SRMを活用した戦略的なサプライチェーン管理が求められる理由の一つです。

さらに、サプライヤーの持続可能性への対応も現代の重要なテーマです。製造業では、環境負荷を軽減するための材料調達や、再生可能エネルギーの利用促進が進められています。これらの取り組みをサプライヤーと連携して進めるには、SRMを活用し、透明性の高いコミュニケーションやデータ共有を実現することが鍵となります。

SRMは、企業がサプライチェーン全体を効率的に管理し、競争力を強化するための基盤です。全てのサプライヤーに均等にリソースを投じるのではなく、品目や関係性に応じた優先順位を明確にし、必要なリソースを重点配分することで、コスト効率、品質向上、持続可能性の確保といった多面的な成果を得ることができます。

今後のグローバルな課題に対応し、企業の成長を支えるためにも、SRMを通じた戦略的なサプライヤー関係の構築がますます重要となるでしょう。

SRMの取り組み方

サプライヤーとの関係を戦略的に管理し、企業の競争力を高めるためには、SRMの適切な取り組み方が欠かせません。サプライヤーの特性や取引内容に応じて関係性をセグメント化し、それに基づいた評価や発注方針を策定することで、効率的かつ効果的な調達活動を実現することが可能です。

 

ここでは、SRMの実践において重要なセグメンテーション、サプライヤー評価、発注方針の立案と実行について、具体的な事例を交えて解説します。効率的な調達活動を目指す企業にとって、必見の内容です。

サプライヤーのセグメンテーションの検討

SRMの最初のステップは、サプライヤーのセグメンテーションです。これにより、各サプライヤーの重要性や特性に応じたアプローチを設計できます。サプライヤーのセグメンテーションの例をいくつかご紹介します。

1.Kraljicマトリックス

Art of Procurementをもとに弊社で作成

Kraljicマトリックスは、調達品の重要度と供給リスクを基に、サプライヤーを以下の4つのカテゴリーに分類します。

    1. 重要でない品目: オフィス用品や標準コンポーネントなど、利益への影響が少なく、供給リスクが低い購入品です。戦略的な配慮は最小限で済み、合理化された取引のプロセスとコスト効率の高い調達を通じて管理できます。

    2. レバレッジ品目: これらは、コモディティ原材料や標準サービスなど、利益への影響は大きいが供給リスクは低い購入です。競争入札、数量統合、積極的な価格交渉の機会を提供し、コスト削減を最大化します。

    3. ボトルネック品目: 希少または特殊な部品など、利益への影響は小さいが供給リスクが高い購入品です。供給の継続性を確保し、生産の中断を回避するには、綿密な監視、緊急時対応計画、およびリスク軽減戦略が必要です。

    4. 戦略的な品目: 重要な原材料、革新的な技術、カスタマイズされたサービスなど、利益への影響が大きく、供給リスクが高い品目です。リスクを管理し、相互の価値を生み出すには、サプライヤーとの緊密な連携、共同のイノベーションと開発、長期的なパートナーシップが必要です。

この分類により、各品目に適した調達戦略を策定できます。たとえば、ボトルネックアイテムに対しては、代替サプライヤーの確保や在庫の確保が必要です。一方で、戦略的アイテムには、共同開発や長期契約を通じた強固なパートナーシップ構築が求められます。

2.自社の購買力と市場の寡占度による分類

書籍「最適解を導く調達戦略フレームワーク―何を-誰から-どう買うか-」ではサプライヤー自社の購買力と調達品の市場の寡占度の2軸に基づき、戦略を分類しています。

    1. 自社の購買力(大)×調達品の市場の寡占度(低)⇒  競争原理の最大活用
      自社の購買力を活用することで、取引先との有利な交渉が進みコスト削減が実現し、市場寡占度が低い場合には新規取引先を開拓することでリスク分散と競争優位性が高まり、さらに購買力強化により供給不安や価格変動にも柔軟に対応でき、安定した調達が可能になります。

       

    2. 自社の購買力(小)×調達品の市場の寡占度(低)⇒  競争と協調のバランス
      購買力が小さい企業でも、新規取引先との協力により調達コストを低減し、共同でコスト削減策を講じることで競争力を高め、長期的な協力関係を築くことで安定供給と互いの成長が期待でき、標準品の活用によって価格競争に強い調達と品質・コストの安定が図れます。

       

    3. 自社の購買力(大)×調達品の市場の寡占度(高)⇒  戦略的パートナーシップの構築
      自社の購買力が大きく、市場寡占度が高い場合、業界リーダーとの提携により有利な契約条件を引き出し、安定供給と価格安定が実現でき、サプライチェーン全体の効率化が進みます。また、パートナーシップ強化によりサプライチェーンの無駄を減らし、物流や在庫管理の効率化が進み、取引先との連携で仕様合理化を図ることでコスト削減が実現します。

       

    4. 自社の購買力(小)×調達品の市場の寡占度(高)⇒  汎用品・代替化
      購買力が小さく、調達品の市場寡占度が高い場合、内製化を進めることで外部依存から脱却し、コストコントロールや品質・供給の安定性が確保できます。また、代替品の導入を進めることで調達先依存を減らし、リスクヘッジやコスト削減、品質向上が可能になります。

これらの分類方法は、価格交渉や標準品・競争原理の活用によるコスト削減、取引先との関係強化、代替品導入によるリスク軽減、市場寡占度に応じた競争優位性の強化、戦略的パートナーシップや内製化による安定供給体制の構築に繋がります。

3.ピラミッド型セグメンテーション

ピラミッド型モデルでは、少数の重要なサプライヤーを頂点に配置し、一般的な取引サプライヤーを底辺に配置します。このモデルにより、リソースの集中と効率的な管理が可能になります。

サプライヤーセグメンテーションピラミッドは、サプライヤーを3つのグループに分類します

 

    1. 戦略的サプライヤー(最も価値が高く、高リスク、低ボリューム)
    2. 重要なサプライヤー(運用に不可欠、リスク中程度)
    3. 一般サプライヤー(価値は低く、高ボリューム、容易に代替可能)
Procuropediaをもとに弊社で作成

このセグメンテーションは、重要なサプライヤーに対してリソースを優先的に配分するために使用されます。戦略的サプライヤーと重要なサプライヤーは供給ベースの20%を占める一方で、購入金額の80%を占めます。一般サプライヤーは供給ベースの80%を占めるものの、購入金額はわずか20%にとどまります。ピラミッド方式は、サプライヤー数が少ない中小企業でよく採用されます。

 

サプライヤーのセグメンテーションの重要性は企業が限られたリソースを効果的に配分し、サプライヤーとの関係を効率的かつ戦略的に管理するための基盤を提供する点にあります。サプライヤーごとに提供する価値やリスクが異なるため、すべてのサプライヤーを同じ基準で扱うことは非効率的です。

 

セグメンテーションをしっかりと行うことで、サプライヤーの重要度や特性に応じた適切なアプローチを明確化し、リソースの集中配分やリスク管理、パートナーシップの深化が可能になります。結果として、供給の安定性、コスト効率、品質向上、持続可能性といった企業目標の達成を支援します。

サプライヤー評価の実施

サプライヤー評価は、SRMの成功に欠かせないプロセスであり、供給の安定性や企業の競争力を高めるための基盤です。評価を効果的に行うためには、以下のステップに沿って進めることが重要です。

      1. 評価基準の設定
        まず、サプライヤーを評価する基準を明確にします。一般的には以下の項目が用いられます
        1. 品質: 製品やサービスが定められた基準を満たしているか。
        2. 納期: 納期の遵守率や、供給の安定性が高いか。
        3. コスト: 提供される価格が競争力を持ち、コストパフォーマンスが優れているか。
        4. 革新性: 新技術の導入や改善提案が積極的に行われているか。
        5. リスク管理: 供給停止リスクへの備えやビジネス継続計画(BCP)が適切に整備されているか。

           

      2. データ収集と分析
        評価基準に基づき、必要なデータをサプライヤーや内部から収集します。これには、納期遵守率の記録、品質不良率のデータ、価格比較表、技術提案の数、リスク対策の状況などが含まれます。収集したデータを基にサプライヤーの現状を定量的に把握します。

         

      3. パフォーマンスレビューの実施
        定期的にサプライヤーとのパフォーマンスレビューを実施します。この場では、評価結果を共有し、改善が必要なポイントや良好な点を具体的に伝えます。また、目標を設定し次回の評価までに達成すべき内容を明確にします。たとえば、納期遵守率を向上させるための改善計画を共有することが考えられます。

      4. 改善計画の策定とフォローアップ
        評価結果をもとに、サプライヤーと共同で改善計画を策定します。これには、品質管理プロセスの見直し、リスク対策の強化、新しい技術や生産手法の導入などが含まれます。改善の進捗状況をモニタリングし、必要に応じて追加支援や調整を行います。

      5. 評価プロセスの継続的な見直し
        サプライヤー評価のプロセス自体も定期的に見直します。市場環境や企業戦略の変化に応じて、評価基準や手法を更新することで、常に最適な評価を行うことが可能になります。

         

これらのステップを通じて、サプライヤーの能力向上を支援するとともに、企業とサプライヤー間の信頼関係を強化することができます。評価を単なる査定にとどめず、関係性の深化や長期的なパートナーシップの構築につなげることが、SRMにおける評価プロセスの最大の目的です。

個別のサプライヤーごとの発注方針の立案と実行

SRMにおいて、サプライヤー評価を基に発注方針を立案し、実行することは重要です。以下はそのプロセスです:

      1. サプライヤー評価の活用
        1. サプライヤー評価に基づき、戦略的にフォローが必要なサプライヤーを特定し、課題や強みを把握します。

      2. 発注方針の立案
        1. 目的設定: 品質改善やリスク軽減など、各サプライヤーの役割に応じた目標を設定します。
        2. 具体的方針: 契約期間、発注頻度、供給条件、共同プロジェクトの有無などを決定します。

      3. 抑えておくべき情報
        1. 契約内容: 価格、納期、リスク対策。
        2. パフォーマンス目標: 納期遵守率や不良率など。
        3. コスト情報: 単価や総コスト。

      4. 実行状況の管理
        1. パフォーマンスやリスク発生状況をモニタリングし、改善計画の進捗を確認します。
        2. サプライヤーと定期的にフィードバックを交換し、課題を共有します。

      5. 改善とフォローアップ
        発注方針の結果をレビューし、必要に応じて方針を修正し、サプライヤーとの協力関係を強化します。

 

このプロセスにより、サプライヤーとの関係を効率的かつ戦略的に管理し、安定した供給や企業目標の達成を実現します。

まとめ

SRMは、単なるコスト削減手法ではなく、企業の競争優位性を高めるための重要な戦略です。サプライヤーのセグメンテーション、評価、関係性管理を通じて、効率的かつ効果的な調達活動を実現できます。

 

これにより、企業は安定したサプライチェーンを確保しながら、持続可能な成長を達成することが可能です。今日のグローバルなビジネス環境において、SRMの重要性はますます高まっています。この機会に、貴社の調達活動にSRMを導入し、さらなる成功を目指してはいかがでしょうか。

投稿者プロフィール

A1A編集部
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