調達購買業務において、ソーシング活動はサプライチェーンの基盤を支える重要な役割を果たします。サプライヤーとの関係性を強化し、新規サプライヤーを開拓するポイントを押さえることで効果的なソーシング活動が可能です。本記事では、ソーシングの基本的な意味やその種類、さらにパーチェシングとの違いを説明し、効果的な調達を実現するための戦略を詳しく解説していきます。 調達購買業務におけるソーシング活動とは 調達購買業務は、企業が効率的かつ持続可能な取引環境を構築するための重要なプロセスです。その中でソーシング活動は、サプライヤーを適切に選定し、契約を結ぶことで調達全体の戦略を形成します。この章では、ソーシングの種類とパーチェシングとの違いについて解説していきます。 ソーシングの意味 ソーシングとは、部品や原材料を提供するサプライヤーを開拓、評価、選定するプロセスです。ソーシングはサプライチェーン・マネジメントの初期ステップの一つであり、最適な購買条件を得るための重要な業務となります。 具体的なソーシングの流れは以下の通りです。 仕入先開拓: サプライヤー企業の候補になりうるメーカーを探索することで、サプライヤー間の競争環境の構築とサプライチェーン寸断のリスク低減を目指す。見積依頼先選定: 発注側が求める要件をクリアできる可能性の高いサプライヤーを抽出する。見積依頼: サプライヤーが適切な見積回答をできるよう、前提条件を整理したうえで見積依頼を行う。見積査定: サプライヤーから受領した見積書の内容を精査し、適正価格かどうかを見極める。また、サプライヤー間で比較を行い、どのサプライヤーを選定するか判断する。交渉: 見積査定 より詳細なソーシングプロセスの全体像については下記資料より確認できます。【関連資料:見積査定プロセスのあるべき姿とは】 ソーシングは単なるサプライヤーの選定で終わるものではなく、企業のサプライチェーン全体の効率化と安定性を高める重要なプロセスです。自社の目標に合ったサプライヤーを選ぶことで、コスト削減や市場競争力の向上が期待できます。 ソーシングとパーチェシングの違い 出典:A1A 調達購買業務は大きく分けて「ソーシング」と「パーチェシング」の2つに分類されます。それぞれの役割は以下の通りです。 〈ソーシング〉サプライヤーの選定や契約締結が主な役割です。仕入先を開拓し、依頼先を選定した上で見積依頼や査定、交渉、契約に至るまでの一連のプロセスを指します。 〈パーチェシング〉パーチェシングは発注から支払いまでのプロセスを担います。契約が締結された後の発注、納品、検収、支払いなど、実務的な購買活動です。 例えばソーシングでは、新しいプロジェクトのために複数の候補サプライヤーを評価し、見積もりを比較しながら最適な取引条件を設定します。一方、パーチェシングでは、既に契約したサプライヤーに対して発注し、納品された製品の品質を確認して、問題がなければ検収・支払いするのが一般的な流れです。 ソーシングとパーチェシングは、それぞれ異なる役割を持ちながら、調達・購買業務を支える役割を担います。ソーシングが戦略的な計画を担い、パーチェシングがその計画を実行に移すことで、調達プロセス全体の効率化が可能です。両者を適切に連携させることで、コスト削減や品質向上、納期遵守といった企業目標の達成に大きく貢献できます。 ソーシング業務の重要性 ソーシング業務は、調達品のQCDに大きな影響を及ぼすため非常に重要な業務です。具体的にコストダウン検討のスケジュールや中長期にわたる製品の競争力への影響について見ていきましょう。 コストダウン検討のスケジュールに影響 出典:A1A 上図は、製造業の設計から量産までのフェーズと、各部門の役割を示しています。試作段階のコストダウン(CD)検討において、詳細設計フェーズは最も効果が大きい時期です。この時期にどれだけ時間を確保できるかが、製品の競争力を大きく左右します。 例えば、仕入先の選定や交渉が前倒しで進めば、詳細設計フェーズで十分な時間を確保でき、コストダウン施策を検討する期間を得られます。一方、調達のソーシング工程が遅延すると、コストダウン検討を十分にできず、機会損失するリスクが高まります。 詳細設計フェーズでのコストダウン効果を最大化するためには、効率的かつ質の高いソーシング業務の実施が不可欠です。開発リードタイムが短い中でも、戦略的な計画とスケジュール管理を徹底し、コスト削減とスケジュール維持を両立させる取り組みが求められます。 中長期にわたる製品の競争力に影響 自動車業界をはじめとする量産系メーカーでは、同じ製品を数年単位で生産するため、ソーシング業務の成果は製品の品質(Quality)、コスト(Cost)、納期(Delivery)に中長期的な影響を及ぼします。 近年の物価上昇や取引の適正化を目指した下請法や独占禁止法の影響により、量産開始後のコスト低減は難しいため、ソーシング段階にて適正価格で調達することが重要です。製品の価格競争力を維持するには、ソーシング業務においてサプライヤーとの交渉や選定を戦略的に行い、適切な価格と条件で契約を結ぶことが求められます。 例えば、量産開始前に適正価格での契約を結べれば、製品のライフサイクルの中で、しっかりと利益を確保することが可能です。一方で、ソーシングの失敗や交渉不足があれば、量産開始後の原価低減が難しくなり、企業の利益率や市場競争力が低下する懸念があります。 中長期的な製品のQCDを維持・向上させるには、ソーシング段階で適正価格を確保することが不可欠です。ソーシング活動を戦略的に検討し、物価動向や法規制を考慮しながら、効率的かつ公平な取引条件を構築することが、製品の競争力と企業の持続的成長を支える鍵となります。 ソーシング業務を高度化するためのポイント ソーシング業務を高度化するには、サプライヤーとの関係性の強化、新規サプライヤーの開拓、そして調達データに基づいた分析が必要になります。サプライヤーから良い提案を受けられる環境を整え、適正価格や高品質を実現できる仕組み作りが必要です。この章では、これらを戦略的に進める具体的な施策について解説していきます。 サプライヤーとの関係性の強化 ソーシング業務を高度化し、サプライヤーからより良い提案を受けるためには、サプライヤーとの関係性を戦略的に構築・強化しておくことが重要です。調達部門のリソースは限られているため、戦略的な取り組みが求められます。 このような状況を効率的に管理する手法として、SRM(サプライヤー・リレーションシップ・マネジメント)の活用が効果的です。SRMを活用すれば、サプライヤーとの関係を戦略的に管理し、優先すべきパートナーにリソースを集中させられます。 SRMを活用するメリットは以下の通りです。 〈SRMを活用するメリット〉 ・イノベーションの実現が期待できる・企業とサプライヤー双方の利益が期待できる・サプライヤーとのより良い関係を築けるきっかけが得られる 例えば、SRMを導入した企業では、重要なサプライヤーとの情報共有や協業を促進し、コスト削減や品質向上につながる提案を引き出せる可能性が高まります。このような状態を事前に構築できれば、ソーシング業務の効率化とコストダウン効果の最大化が可能です。 SRMは、限られたリソースを効率的に配分し、効率的なサプライチェーンを構築するために不可欠な手法になります。サプライヤーとの強固な関係を構築することで、ソーシング段階での提案の質が向上し、持続可能な調達体制を構築する重要な要素のひとつです。 関連記事:SRM(サプライヤー・リレーションシップ・マネジメント)とは?戦略的調達購買活動を実現するためのマネジメント手法を解説 新規サプライヤー開拓の強化 ソーシング段階でより良い提案をサプライヤーから受けるためには、既存のサプライヤーとの関係性の強化も重要ですが、新たなサプライヤー候補を発掘することが重要です。 出典:工場管理 上図が示す通り、日頃から候補サプライヤーを開拓・評価し、認定サプライヤーとして登録しておき、必要に応じて採用できる体制の構築が必要です。既存のサプライヤーとの長期的な取引においても、しばしば相互の甘えが生じるので、定期的に評価し、緊張感を持たせた関係性を維持します。 具体的に新規サプライヤーを見つける方法は、以下の通りです。 〈新規サプライヤーを見つける方法〉 ・地区商工会への参加・調査会社や業界団体の活用・商談会や展示会への参加・銀行、商社などの活用・インターネットを通じたマッチングサービスの活用 例えば展示会での効果的なサプライヤー探索の方法は、以下の通りです。 〈展示会での効果的なサプライヤー探索の方法〉 事前準備 ・対象の明確化:技術や材料など調査対象を具体化し、展示会の有効性を評価する。・参加者の選定:調達部門と技術部門から各1名ずつ選出し、2名で情報の抜け漏れを防止する。・出展内容の確認: 併設される講演会やセミナーで役立つ情報がないかも含めて事前に確認する。 展示会での行動 ・情報収集:参加ブースや講演会、セミナーに参加しつつ、担当者と意見交換し、問い合わせ先を入手する。・注目するブース: ライバル企業や異業種の人気企業ブースに着目し、新たな知見を得る。 事後のフォローアップ ・情報整理と共有: 同行者と意見交換しながら入手情報を整理し、報告書を作成して自社内で共有する。 このように、競争環境を整え、ソーシング業務を効率化するには、新規サプライヤーの開拓を戦略的に進めることが不可欠です。既存のサプライヤーと関係を強化しながら、製品の競争力向上が期待できます。 調達購買業務に関するデータベース基盤の構築 ソーシング業務の中で適正価格での調達を実現するには、見積書や調達データを多角的に分析し、価格の妥当性の判断が不可欠です。そのためには、調達購買業務に関するデータをいつでも活用できるように、一元管理できるデータベースが必要になります。 適正価格を見極めるには、以下のような多様な観点での分析が必要です。 〈適正価格を見極める観点〉 ・複数のサプライヤーへの相見積もり・過去の同一部品や類似部品との比較・他拠点の調達品・市況との比較 しかし、多くの調達部門では、これらの比較や分析に必要なコスト情報が十分に蓄積・活用されておらず、分析に基づいた適正価格の判断が困難な状況です。例えば、見積書やサプライヤーとやり取りした記録は、担当者ごとに個人で保管されていることが多く、部署内で共有できていないことも珍しくありません。だからこそ、調達購買業務に関するデータベースの構築が不可欠になります。 この課題を解決するために役立つプラットフォームのひとつが、製造業向け調達データプラットフォーム「UPCYCLE」です。このプラットフォームは、見積書や図面といった調達業務に関する情報を一元管理できる仕組みを提供します。このツールを活用すれば、過去のデータや他拠点の調達状況と比較することで、効率的かつ正確な分析が可能となり、調達業務の精度が格段に向上します。 〈関連リンク〉調達データプラットフォーム「UPCYCLE」 まとめ ソーシング業務は、適切なサプライヤー選定と戦略的な関係を構築することで、企業の競争力向上に寄与します。効率的な調達を実現するには、サプライヤーとの連携、新規開拓、データ活用をバランスよく取り入れることが重要です。持続可能な調達体制を築くために、今こそソーシング活動を見直しましょう。 投稿者プロフィール A1A編集部 A1Aブログは製造業向け調達データプラットフォーム「UPCYCLE」を提供するA1A株式会社が運営するメディアです。製造業の調達購買業務に役立つ情報を発信しています。 最新の投稿 2025年4月23日調達戦略の構成とフレームワークを紹介 2025年4月17日原価企画とは?原価企画の意味と進め方を解説 2025年4月3日開発購買に求められるスキルを分かりやすく紹介 2025年3月28日サプライヤー評価の基準・項目を紹介 ダウンロード可能なサプライヤー評価シート付き