グリーン調達の使命:自動車EVシフトによる調達部門への影響を解説

自動車産業は、海外メーカーの猛烈なコスト攻勢と電動化に伴うサプライチェーンの複雑化に直面しています。この激変期において、調達部門は単なるコスト削減だけでなく、環境負荷低減と原価企画活動を両立させる「グリーン調達」へのシフトが急務となっています。

本記事では、EV/HVへの移行が調達部門にもたらす具体的な影響と、成功させるための戦略について解説します。

なお、グリーン調達のより詳しい手法については、「グリーン調達とは?調達購買担当者が知っておくべき内容をわかりやすく解説」の記事で実践的なテクニックを詳しく解説しております。ぜひご覧ください。

 

自動車産業の構造変化:EVシフトと調達部門の役割再定義

自動車産業は今、かつてないほどの変革期を迎えています。EV化の加速やHVの定着に加え、地政学的なリスクやEUのバッテリー規則など環境規制強化を中心とする要因が絡み合い、従来のビジネスモデルを根底から揺るがしています。

 

出典)滋賀大学 経済経営研究所『エンジン車と次世代車間の部品の関連性』(2024)PDF
https://www.econ.shiga-u.ac.jp/ebrisk/Ronso-438_okamoto.pdf

上図のグラフが示すように、EVはガソリン車と比較して部品構成が大きく変わることが分かります。特に、グローバル市場における海外メーカーの猛烈なコスト攻勢は、日本の自動車メーカーにとって喫緊の課題です。

既にこの変革期において調達部門は、エンジン・トランスミッションの不要化による約40%の部品構成の根本的変更や、従来のピラミッド型分業体制の崩壊という構造的変革に直面しており、単なるコスト削減を超えた部門の役割そのものを再定義しなければなりません。

部品構成の根本的転換と新素材の台頭

『令和4年度 電動化シフトを踏まえた地域自動車部品サプライヤーの技術力・開発力向上に向けた動向調査』報告書によれば、部品点数はエンジン車では約3万点であるのに対して、EVでは2万点で収まる見込みです。一方で、電動化でインバーターやギアを一体化した eアクスル など今後の市場拡大が見込まれる部品も一定数存在します。

画像:経済産業省

従来のガソリン車における主要部品であった内燃機関がEVでは不要となる代わりに、調達コスト全体の約40%を占めるバッテリー、モーター、PDMなどの電動パワートレイン部品が中心となります。

バッテリーなど高コストな電動パワートレインが中心となるEVにおいて、市場競争力と製品性能(一回の充電で走れる距離や走行性能)を両立させるためには、車体軽量化が調達部門にとっての至上命題となります。この軽量化の実現には、超ハイテン材、アルミダイカストなど新素材への転換だけでなく、これらの新素材に関する深い技術知見と高度な加工技術を持つサプライヤーを見極め、戦略的に選定する能力が強く求められています。

グリーン調達の核心:サステナビリティとトレーサビリティ

バッテリーなど高コストな電動パワートレインに加え、SDV(ソフトウェアで機能が定義される自動車)のソフトウェア開発への初期投資も増大しており、コスト管理の難易度は劇的に高まっています。さらに、環境コスト(炭素税やLCA規制対応コスト)が無視できない水準となり、調達部門は従来の部品単価削減論から脱却しなくてはなりません。

バッテリー調達の特殊性と環境負荷の可視化

代表例として、EVの核であるバッテリーのサプライチェーン管理には、次の2つの特殊な論点があります。

        1. レアアースと環境汚染リスク: バッテリーに使用されるコバルトやリチウムなどの資源採掘地では、環境汚染や人権といった深刻な問題が指摘されています。調達部門は、サプライヤーに対して徹底したデューデリジェンス(適正評価手続き)を実施し、原材料の採掘から製造に至る全工程の透明性(トレーサビリティ)を国際的な規制レベルで確保しなければなりません。
        2. ライフサイクルアセスメント(LCA)の導入: EVは走行中のCO2排出量がゼロですが、バッテリーを製造する際のCO2排出量が大きいことは無視できません。そのため、車両のLCA(製造から廃棄までの全工程の環境負荷評価)は非常に重要とされています。調達部門は、サプライヤーから部品ごとのLCAデータ(例:CO2排出量)の提出を求め、これを調達基準に組み込む必要があります。

EVシフト後も、サプライヤーの製造プロセスにおける環境負荷は、企業のESG評価とブランドイメージに直結します。
調達部門は、「価格」「品質」に加え「環境負荷の低減」を第三の調達基準として組み込み、排出量削減を共に推進し技術的支援を行うサプライヤーエンゲージメントを強化する必要があります。

まとめ

自動車産業のEV/HVシフトは、調達部門にとってこれまでにない大きな挑戦であると同時に、企業価値向上のための重要な機会です。グリーン調達を核とした持続可能なサプライチェーンの構築は、単に環境規制に対応するだけでなく、環境負荷の低い部品から生まれる競争力強化、ブランドイメージ向上、そして新たなビジネス機会の創出にも繋がります。

調達部門は戦略的な視点と変革への強い意欲を持ち、歴史的な転換期を乗り越えていくことが求められています。

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A1A編集部
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