製造業の現場では、コストダウンや品質向上を実現するためにVAとVEという手法が頻繁に活用されます。一見似ているこれらの用語ですが、実際には適用フェーズやアプローチに違いがあります。 本記事では、VAとVEの基本的な違いから、それぞれの進め方、実際の事例までをわかりやすく解説し、調達・購買部門の方々が現場で活用できるヒントを提供します。 VAとVEの違いとは? まずは混同されることが多い、VAとVEの違いについて解説します。 VAとVEの基本的な違い VAとVEは、どちらも製品やサービスの価値を最適化しつつ、コストを最小化することを目的とした手法です。そのため、現場では同一の概念として扱われることも少なくありません。しかし実際には、適用されるフェーズやアプローチに違いがあり、特に自動車業界ではこの区別が明確にされています。 たとえばトヨタ自動車では、VEは量産開始前の設計・開発段階に適用されるのに対し、VAは既に量産・市場投入された後の製品に対して適用されると定義されています。 つまり、VEは新製品の設計段階での価値最適化、VAは既存製品へのコストダウン施策というように、フェーズによって使い分けられているのです。次の章では、それぞれの定義と目的を詳しく見ていきましょう。 VAとVEの意味 VE(Value Engineering)とは? VEの本来の定義は「V(価値)= F(機能)/C(コスト)」の式に基づき、価値を高めることに注力します。たとえば、コストを抑えながら機能を維持する(コストダウン型)方法や、機能を向上させつつコストを据え置く(機能アップ型)方法など、さまざまなアプローチで価値向上を目指すことが可能です。一方でトヨタ自動車をはじめとする自動車業界では、「製品開発段階における価値向上活動」として、主に設計や試作といった量産前のフェーズに適用され、新製品を開発する際に、必要な機能を満たしながら、不要なコストを排除し、コストパフォーマンスの最大化を目指す、という意味で認識されています。 この手法では、設計仕様や材料選定、製造プロセスなどを多角的に検討し、市場投入前の段階で製品の最適化を図ります。つまり、VEは「最初からムダのない設計を行うための事前改善」ともいえます。 参考記事:VE(バリューエンジニアリング)とは?VEの意味と実践方法をわかりやすく解説 VA(Value Analysis)とは? VAの本来の定義は、製品やサービスの機能を見極め、不要なコストを取り除きながら価値の最大化を目指す手法で、単なるコストカットではなく、品質や性能を保ちながら効率的な改善を図ることを目的としています。トヨタ自動車をはじめとする自動車業界では、「既存製品に対する価値向上活動」として、すでに市場投入されている製品やサービスを対象に、機能を落とさずにさらなるコスト削減を目指すという意味で認識されています。 VAでは、設計変更や製造工程の見直し、代替部材の検討などを通じて、製品の競争力強化や利益率の向上を狙います。既に稼働している製品であっても、継続的な改善を加えることで付加価値を高めていくのがVAの特徴です。参考記事:VA活動(バリューアナリシス)とは?VAのやり方と事例を紹介 このように、VAとVEはともに「価値の最大化」を目的としながらも、いつ、どこで、どのようにの観点から異なる手法であることがわかります。 次の章では、具体的な進め方を解説します。 VEの進め方 VEは設計・開発初期から導入されるため、製品企画や設計部門だけでなく、調達・購買部門の積極的な関与が重要です。特に調達・購買部門は、社内で唯一「サプライヤーの選定」と「価格決定」を担う役割を持つ組織であり、VE推進において中心的な存在となります。 さらに、サプライヤーに関する知識や市場価格に関する情報を豊富に持つことから、代替材料や加工方法の提案、製造工程の合理化に向けた連携など、価値向上のための具体策を実現する起点となります。 次に、VEを実施する上で基本となる「5原則」と、その具体的な実施手順について解説します。 VEの5原則 VEを進める上では、以下の5つの基本原則に従うことが重要です。 使用者優先の原則使用者(顧客)のニーズを正確に把握し、その期待に応える製品やサービスを創出することを重視する考え方。機能本位の原則その仕事や製品が「何の目的を果たすのか」に焦点を当て、必要な機能を明確にして改善につなげる。創造による変更の原則現状にとらわれず「さらに良い方法がある」という前向きな姿勢で、新たな価値や機能の創出を目指す。チーム・デザインの原則異なる専門性を持つメンバーが協働することで、多角的な視点から効果的な改善を図るアプローチ。価値向上の原則上記4つの原則を包括し、製品やサービスの価値を最大化するために「機能」と「コスト」の最適なバランスを追求する総合的な指針。 これらの原則は、VEを単なるコストダウン活動にとどめず、価値向上のプロセスとして位置付けるための柱となります。 VEの実践方法と手順 VEの実施には、以下のような段階的な手順を踏むことが一般的です。 機能定義段階最初の段階では、まずVEの対象となる製品や部品、その構成要素に関する情報を収集し、チーム全体で共有します。そのうえで、各要素が「何のために存在しているのか」という観点から機能(働き)を明確に定義し、目的と手段の関係で整理します。こうして整理された機能を系統図として可視化することで、VE活動の土台となる「価値を見直す視点」を整える準備が整います。機能評価段階続いて、明確化された各機能に対して、現在どの程度のコストがかかっているか(C: 現行コスト)を分析し、それぞれの機能がもつ価値(F/C)を数値化します。さらに、その機能にかけるべき理想のコスト(F:機能評価値)を設定し、現行コストとの差(C−F)から改善余地を明らかにします。これにより、どの機能分野に価値の低さやコスト過多があるかを可視化し、優先的に改善すべき対象を選定することができます。代替案作成段階最後に、選定された改善対象の機能に対して、幅広い視点から代替案のアイデアを数多く立案し、粗選定を行って有望な案を抽出します。次に、それらのアイデアを具体的な設計・構成案として形にし、必要に応じて専門家の知見や技術情報を取り入れて改善策を洗練化します。さらに、最終的な評価として代替案が要求機能を満たしているかを検証し、かかるコストと得られる効果を算出します。このステップでは調達・購買部門の知見が特に重要となり、実現性と効果のバランスを見極める判断が求められます。 このようにVEは、明確なプロセスに基づき、多くの部門で連携して価値向上を図る手法です。調達・設計・製造といった各部門の知見を融合することで、製品開発全体の競争力を底上げすることが可能になります。 VAの進め方 VAは、すでに量産が開始されている製品を対象とし、品質や機能を損なうことなくコストを削減することを目的としています。VEと比較すると、設計や仕様の自由度が限られる中での改善活動であり、現場の制約を踏まえた実行力と柔軟性が求められます。 こうした活動を通じて、無駄を省きつつ、継続的な価値向上を目指すVAは、企業全体の収益性向上と競争力強化に大きく寄与します。 VAの対象 VAは主に、既に市場に投入されている製品・部品・サービスを対象に行われます。コスト構造がある程度確立された製品に対して、部品の仕様や材料、製造工程、サプライヤーの見直しなどを通じて、さらなる効率化と合理化を追求するのが特徴です。 特に以下のような部品が対象となりやすい傾向があります。 コスト構造に課題がある部品機能に対してコストが過剰にかかっている(コストパフォーマンスが悪い)他製品への横展開が可能な改善事例をもつ規格や仕様に問題があり見直しの必要がある生産量が多く、改善によるインパクトが大きい収益への影響が大きい重要部品原価率が高く、利益率を圧迫している単価が高く、ABC分析上において、Aランクに該当する管理対象品不良率が高く、品質リスクや修正工数が発生しやすい採算割れの赤字製品(至急改善が求められる) VAの実施方法と手順 VAは、製品やサービスの価値を高めることを目的に、段階的かつ論理的なプロセスで進められます。一般的には、Heinritzの理論に基づいた作業計画が指針として活用されます。以下に、「価値分析(VA)」で紹介されている代表的な進行手順を紹介します。 「価値分析(VA)」をもとに弊社で作成 準備段階分析対象を選定し、設計・調達部門が連携して、分析の進め方を決める。評価段階機能、コスト、使用状況、付帯条件などの情報を収集し、分析の対象部品を決める。思案段階ブレインストーミングを通じて改善の方向性を探る。コストと機能のバランスを分析する。分析段階提案された改善案を、性能・コスト・市場性などの観点から評価する。業者との交渉段階実現可能性の観点から、外部サプライヤーと情報を擦り合わせる。技術検討段階技術的な観点での妥当性を評価し、改善案の整合性を確認する。まとめ段階各種分析結果を体系的に整理し、最も効果的な解決策を最終的な提案としてまとめる。実行段階改善案を試作・実行し、評価を実施する。 このようにVAは、明確なプロセスに基づいて進めることで、短期的なコストダウンにとどまらず、製品価値全体の底上げを実現します。 VAの手法 VAを実践的かつ効果的に進めるためには、複数の改善案を検討することが重要です。製品や部品に求められる機能と、それにかかるコストとのバランスを多角的に分析し、改善の可能性を多方面から探ることが求められます。本章では、「価値のテスト」「比較分析」「機能分析」といった代表的な手法を活用したVAの取り組み方について解説します。さらに具体的な内容については「VA活動(バリューアナリシス)とは?VAのやり方と事例を紹介」を御覧ください。 価値のテスト製品やサービスの機能とコストのバランスを多角的に評価し、無駄なコストを排除するためのチェック手法です。GE社では10項目からなる詳細な評価基準を活用し、価値の適正性を数値的に評価しています。たとえば、使用目的に対して過剰な仕様になっていないか、代替手段や標準品が活用できないかといった視点から、改善の余地を洗い出します。実際には、金属部品の形状を見直して加工工程を簡略化する、社外の汎用品に切り替えて部品コストを圧縮するなど、具体的な改善策に直結する重要な手法です。比較分析複数の材料や部品の性能とコストを比較することで、コストに関する異常値や効率の悪い構造を明らかにする手法です。単位重量あたりや単位体積あたりのコスト、引張強度、耐用年数など、さまざまな観点から数値的に評価することで、最適な材料や形状を選定するための判断材料が得られます。たとえば、コストが高いにもかかわらず必要な性能を満たしていない部材を特定し、代替材料への変更や仕様の見直しによって、品質を維持しながらコストを抑えることが可能になります。機能分析対象となる製品や部品の「機能(何をするものか)」を明確にし、その機能を達成するための手段とコストの最適なバランスを追求する手法です。基本機能と補助機能に分類して整理し、それぞれに対してより効果的かつ経済的な達成手段を模索します。例えば、従来120円かかっていた部品を30円で製造できるようにした事例では、ナット2個を金属板に溶接するというシンプルな構造変更で、同じ機能を維持しながらコストを大幅に削減できました。このように機能分析は、VA活動の中でも特に本質的な見直しを促す強力なアプローチです。 これらの手法を組み合わせることで、VAは単なるコストカットではなく、競争優位性を生み出す戦略的な改善活動へと進化します。 VA・VEの事例 ここでは、実際の業務で活用されたVAおよびVEの事例を紹介します。これらの事例は、新製品の開発フェーズや、コストダウンを検討する現場で応用可能なヒントが多く含まれており、具体的な活動のイメージをつかむ上で非常に有効です。 VEの事例 事例① プレス部品の歩留まり率改善プレス加工部品では、製品コストに占める材料費の比率が高く、歩留まり率の向上が大きな課題となっていました。しかし、設計部門にはプレス加工に関する専門知識を持つ人材が少なく、結果として歩留まりの改善が後回しになる傾向がありました。 このような背景から、以下のような取り組みが行われました。 開発初期段階から、生産技術部門およびサプライヤーの技術者が設計プロセスに参画歩留まり、生産性、品質を意識した部品形状と配置レイアウトの最適化 効果 歩留まり率の大幅な改善サプライヤー側での生産性および品質の向上同一の金型で複数部品を加工する共取り設計の導入による型費・加工費の削減 このプロジェクトは、設計部門・生産技術部門・調達購買部門が密接に連携したことで、製品設計段階からのコスト最適化を実現した好例です。さらに、材質や板厚の最適化といった検討を加えることで、軽量化やさらなるコストダウンも望めます。 事例② 材質変更による軽量化 自動車の燃費性能向上や環境負荷低減を実現するために、車両の軽量化は避けて通れない重要なテーマです。しかしながら、従来のプレス構造をベースとした設計では軽量化に限界があり、目標重量に届かないという課題がありました。 そこで以下のような改善提案を実施しました。 金属製カバーやブラケットなどを、機能を保持したまま樹脂部品に置き換え高強度の樹脂素材を選定し、必要な強度確保のためにリブ追加や肉厚の最適化を実施部品点数の削減と組立効率の向上を目指し、複数部品の一体化提案 効果 部品単体で10~30%の軽量化を達成し、車両全体としての目標重量をクリア生産準備の負荷が高いプレス部品から、樹脂部品にかわることによるサプライヤー負担の平準化 この取り組みでは、調達・購買部門が開発の初期段階から参画し、プレス系サプライヤーから樹脂系サプライヤーへ材料を切り替えるVEを実現しました。調達・購買部門が早期に関わることで設計側の固定概念を打破し、より大きな成果を生み出せるまさにその好例となりました。 VAの事例 事例①:鍛造工法の転換によるカム部品のコストダウン 量産シャフト加工VA・VEセンターによる事例を紹介します。自動車用ステアリング部品に使用されるカムの製造において、従来は熱間鍛造のみで加工が行われていました。この方法では、成形後に大きな削り代が必要となるため、材料ロスが多く、結果としてコストがかさむという課題がありました。 この課題に対して、以下のような改善策が実施されました。 熱間鍛造に加えて、冷間ローリング(ロール成形)を組み合わせた新たな製造プロセスへ変更精度の高い成形を可能にし、後工程の加工を最小限に抑制材料の無駄を減らし、スクラップレスを実現 効果 材料コストの削減:不要な削り代の排除により、使用材料を大幅に削減加工コストの低減:機械加工工程の時間短縮と工数削減を実現歩留まりの向上:工程全体での無駄を省き、安定した品質の維持が可能に このように、工法の見直しは、コスト削減と品質安定の両立に直結する施策です。特に量産が前提の自動車部品においては、最適な成形技術を採用することで、継続的な生産性向上とコストメリットが期待できます。 事例②:めっき工法の見直しによるコスト削減と品質向上 続いてはめっきand表面処理技術サイトの1例を紹介します。 電子部品や金属部品に欠かせない表面処理として、めっき技術は製品品質と耐久性を大きく左右する要素のひとつです。しかし従来のめっき方法では、コストが高いことや、ウィスカ(表面に発生する微細な金属突起)による信頼性低下のリスク、さらには治具使用による工数や品質面での課題が存在していました。 以下の2つのケースでは、既存の表面処理方法を見直すことで、コストダウンと品質向上を同時に実現しました。 ケース①:スズめっきからソルダブルニッケルめっきへの変更 亜鉛ダイカスト製ケースに組み込まれるプリント基板のはんだ付けには、従来「銅+ニッケル+スズ」の三層めっきが採用されていましたが、コストが高く、ウィスカの発生も懸念されていました。 この課題に対して、以下のような改善策が実施されました。 ソルダブルニッケルめっきを導入はんだ付け強度は従来同様に維持スズめっきを不要とし、コスト削減と信頼性向上を両立 効果 コストダウンと同時にウィスカ発生を抑制し、品質も向上評価を経て、量産対応にスムーズに移行 ケース②:6価クロムめっきからバレル三価クロムめっきへの変更 小型のアルミ切削部品(A5052材)では、ニッケル+6価クロムによる装飾めっきを治具を使って施していましたが、高コストに加え、治具の接触跡が品質問題として発生していました。 この課題に対して、以下のような改善策が実施されました。 バレル方式の三価クロムめっきへ切り替え治具を使わずに処理を実施し工程を簡素化、製品への接触跡を防止 効果 コスト削減に加え、表面の仕上がりも改善(接点跡なし)工程の簡素化と品質の安定 これらの事例は、素材や機能要件を変えることなく「工法」に着目したVA活動の好例です。表面処理の見直しが、全体のコスト構造に大きな影響を与えることを改めて意識する必要があります。 まとめ VAとVEは、コスト削減を追求しつつ製品やサービスの価値を最大限に高めるという、現代のモノづくりにおいて欠かせないアプローチです。どちらも同じ「価値向上」を目的にしていますが、適用のタイミングや対象に明確な違いがあります。 VEは、製品が市場に出る前の企画・設計段階で実施されることが多く、仕様や構成を大きく見直すことで根本的なコスト最適化が図れます。一方のVAは、すでに市場投入された既存製品を対象に、改善や改良の視点から効率化を図るための手法です。 本記事では、VA・VEそれぞれの定義から進め方、実践事例までを紹介してきましたが、共通して言えるのは「部門間の連携」が成果に直結するという点です。設計・調達・生産・品質管理など、多職種が知見を持ち寄ることで、コストを抑えながらも価値ある製品の造りこみが可能となります。 また、特に調達・購買部門はサプライヤーとの接点を持ち、価格交渉や素材・加工方法の選定において中心的な役割を果たします。他部署にはないこの知見を活用することで、VA・VE活動はより実効性の高いものとなり、収益性の向上や競争力の強化につながります。 今後ますますコストと品質のバランスが求められるなか、VA・VEを適切に活用し、強力な武器としていきましょう。 参考記事:VA活動(バリューアナリシス)とは?VAのやり方と事例を紹介参考記事:VE(バリューエンジニアリング)とは?VEの意味と実践方法をわかりやすく解説 投稿者プロフィール A1A編集部 A1Aブログは製造業向け調達データプラットフォーム「UPCYCLE」を提供するA1A株式会社が運営するメディアです。製造業の調達購買業務に役立つ情報を発信しています。 最新の投稿 2025年4月30日VAとVEの違いとは?それぞれの手法や進め方、事例をわかりやすく解説 2025年4月23日調達戦略の構成とフレームワークを紹介 2025年4月17日原価企画とは?原価企画の意味と進め方を解説 2025年4月3日開発購買に求められるスキルを分かりやすく紹介