集中購買とは?実践方法や分散購買との使い分け、メリット・デメリットを紹介

集中購買は、コスト削減や業務効率化に有効な調達戦略です。発注を集約することでスケールメリットが生まれ、仕入単価を下げられます。本記事では、集中購買の仕組みやメリット・デメリット、事例を紹介しながら、分散購買との違いや設計部門との連携の重要性について解説します。

集中購買とは

集中購買とは、発注数量をまとめてスケールメリットを得ることで、コストダウンを狙う手法です。サプライヤーや発注窓口が分散していた取引を一本化します。ここでは、集中購買の進め方を具体的に解説します。

集中購買の切り口

集中購買を成功させるには、3つの視点からのアプローチが有効です。

 

発注が分散していると、1回の取引数量が少なくなり、単価が上がりやすくなります。さらに、サプライヤーの管理工数や担当者の負担も大きくなります。発注量を集約すれば、コスト低減と業務改善の向上が可能です。

 

具体的な集中購買の切り口は、以下のとおりです。

・サプライヤーの集約
複数のサプライヤーに分散していた発注を、条件の良い1社にまとめる手法です。取引数量を増やすことで価格交渉力が高まり、納期や品質の安定化にもつながります。

 

・発注窓口の集約
事業部や拠点ごとに分散していた発注窓口を調達部門に集約し、調達量を集めてコストを下げる方法です。管理工数の削減や購買条件の標準化が進みます。

 

・企業間での集約

以下の2パターンがあります。

■仕入先分も含めた原材料・部品の一括発注:自社とサプライヤーが共通で使う原材料や部品を、自社側でまとめて発注し、発注数量を増やしてコスト低減を狙います。

■企業間の共同調達(アライアンス):複数企業が連携し、同じ部材を共同で調達します。これにより調達規模が拡大し、価格交渉力が向上します。

集中購買は単なるコスト対策ではなく、調達全体の生産性と整合性を高める戦略的手段です。自社の状況に応じた切り口を選び、段階的に導入することで大きな効果が得られます。

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集中購買でなぜ安くなるのか

集中購買によってコストが下がる理由は、大きく3つに分類できます。

 

        1. 規模の経済が働き、固定費が分散される

           

          発注数量をまとめると、規模の経済(Economies of Scale)が働きます。事業規模が大きくなるに連れて単位当たりのコストが小さくなり、競争上有利になる効果のことです。

 

企業のコストは以下の二つに分類されます。

・固定費:生産量に左右されない人件費等が該当します。単位あたりの固定費は、生産量が増えると低下し、規模が大きくなるにつれてコスト効率が向上します。

 

・変動費:原材料などが該当し、生産量に比例して増加します。発注量が多くなると買い手の交渉力(バーゲニングパワー)が増え、仕入単価の引き下げが期待できます。

ただし、製品やサービスによっては、規模の経済が働かないケースもあります。集中購買によるコスト効果は、対象業務や品目の性質を見極めた上での判断が必要です。

        1. 発注量の増加により交渉力が高まる

          発注量が増えると、サプライヤーにとって売上構成比が高くなり、重要顧客として扱われます。具体的な理由は、以下のとおりです。

           

・サプライヤーが価格を下げても、取引全体での利益を確保しやすい

・ボリュームディスカウントが適用されやすくなる

・他社よりも有利な単価条件が提示されやすくなる

 

発注量の多さは交渉力を高める要因となり、調達コストの削減に直結します。

 

        1. 拠点ごとの価格差を是正できる

          拠点によっては、見積査定や価格交渉が不十分になり、高値で調達しているケースもあります。また、調達に関する情報が拠点間で共有されず、価格のばらつきに気づけていない場合もあります。拠点をまたいで集中購買を実施することで、高値買いで調達してしまっていたコストを低減することが可能になります。

このようなコスト低減余地を発掘するには、価格データの一元管理が有効です。UPCYCLEでは、拠点間の無駄な支出を可視化し、調達単価の統一に役立ちます。

 

集中購買は、数量の集約によって仕入コストを下げる有効な方法です。この機会に自社の仕組みを見直し、集中購買を活用していきましょう。

集中購買のメリットとデメリット

集中購買は、企業全体の調達力を高める有効な手法ですが、運用には注意が必要です。

集中購買には、以下のようなメリットがあります。

・原価低減
発注を一括化することでスケールメリットが働き、仕入単価が下がります。

・取引先管理の効率化
サプライヤー数を減らすことで、契約・納期・品質などの管理が効率化されます。

・内部統制の強化
発注窓口を一本化することで、購買データの集約やコンプライアンスの管理がしやすくなります。

一方、デメリットも存在します。

・現場ニーズの反映不足
仕様や用途の違いが軽視され、現場で使いづらくなる恐れがあります。仕様・材料の共通化には、技術面や信頼性の検証が欠かせません。

・調整負荷の増加
購入窓口の統合には、複数部門・拠点間での労力がかかります。購入条件を明確にするため、窓口間のコミュニケーションが重要です。

・供給リスクの集中
特定のサプライヤーに依存することで、トラブル時の影響が大きくなります。

・交渉力の低下
サプライヤーへの依存度が高まり、自社の立場が弱くなる可能性があります。

・既存サプライヤーとの関係性の悪化
集中購買を進めた結果、ある部品の発注が特定のサプライヤーに対してゼロになると、そのサプライヤーに発注している他の製品の価格が上がるリスクがあります。

集中購買のデメリットを補うには、効果とリスクのバランスを見極めた運用が求められます。集中範囲やカテゴリごとに適用可否を検討し、集中しやすい体制を段階的に整備する取り組みが必要です。

集中購買を実践する際のポイント

集中購買を成功させるには、やみくもに集約するのではなく、効果が出やすい条件の見極めが重要です。品目や運用方法によって成果に差が出るため、この章では適用判断のポイントを解説します。

集中購買を狙うべき品目の見極め

集中購買の効果を最大化するには、対象とする品目選定が重要です。集中化のメリットが出やすい品目を選ぶことで、効果的な運用につながります。

 

集中購買に適した品目の特徴は以下のとおりです。

・購買金額が大きい品目
ABC分析やパレート分析で上位に位置する品目は、原価低減のインパクトが大きく、優先的に集中化の対象とすべきです。

・複数部署・拠点で共通利用されている品目
使用頻度が高く、社内全体で調達されている汎用部品は、まとめて管理することでスケールメリットが得られます。

・規格化・標準化されている品目
規格品(例:ボルト、Oリング、間接材など)は、仕様の統一がしやすく、集中購買に適しています。

・カテゴリ単位での共通性がある品目
製品や部品単位ではなく、製造カテゴリ単位(例:機械加工品、射出成型品、事務用品など)で共通性を持たせることで、個別調達よりも効率的な集中が実現できます。

一方で、集中購買に不向きな品目も存在します。

・特注品・試作品
特注品や試作品は都度仕様が異なるため、標準化や一括調達が困難です。

・地場特有材や地域密着型の品目
地域によって取扱いや調達先が限定される品目は、集中購買によって逆にコストやリードタイムが増加する可能性があります。

このように、集中購買の対象選定には、単に数量や金額だけでなく、使用する目的や用途に応じた総合的な判断が必要です。戦略的な集中購買を進めるには、事前の品目分析と社内ヒアリングが欠かせません。

集中購買と分散購買の使い分け

集中購買と分散購買は、調達の目的や品目の性質に応じて使い分けることが重要です。それぞれの利点と課題を理解し、戦略的に選択することでコスト低減や効率化につながります。

 

集中購買の特徴:
集中購買は、調達ボリュームを一括化することで、単価交渉力が高まり、調達コストを削減できるメリットがあります。

 

分散購買の特徴:
分散購買は、各拠点・部門の裁量を活かし、柔軟でスピーディーな調達が可能です。納期や地域性を重視する品目に対して効果があります。また、サプライヤー間での競争を促すことで価格を低減できるメリットがあります。

 

集中と分散を戦略的に繰り返すことで、サプライヤーに対する健全な競争環境を維持できます。たとえば、図に示すとおり集中購買である程度の価格メリットを得たあと、一部を競合先に振り分けて再び競争を促進し、その後また集中化へ戻す流れです。

この「ボリュームメリット → 競争喚起 → 再集中によるメリット最大化」のループが、持続可能なコスト低減につながります。

 

集中購買と分散購買は、どちらかに固定するのではなく、調達品目やサプライヤー状況を見極めながら、柔軟な切り替えが求められます。

設計部門との連携

集中購買を成功させるには、設計部門との連携が不可欠です。設計段階での判断が、後工程の調達効率やコストに大きな影響を与えます。

 

設計部門が独自に品番や仕様を選定すると、同じカテゴリ内でも類似部品が乱立し、発注が分散します。この状態では、スケールメリットが得られず、コスト削減の機会を逃します。特にカスタム品や非標準品の多用は、コストの高止まりの原因となります。

 

この課題に対処するには、以下の取り組みが有効です。

        1. 設計初期から部品の共通化・標準化を意識する
        2. VE(Value Engineering)活動を通じて、過剰仕様を見直し、汎用部品への置き換えを進める
        3. サプライヤーの調達条件(MOQ、納期など)を設計に反映する

これらの取り組みを推進するには、調達部門から設計部門への情報提供が必要です。たとえば、調達実績や市場価格、供給リスクといった情報を共有すれば、設計段階でより合理的な判断が可能になります。

 

このような連携は「開発購買活動」として知られ、設計と調達が一体となって原価低減を図る戦略です。集中購買は調達部門だけでは完結しません。設計と調達が早期から連携し、標準化や購買条件を踏まえた部品を選定することで、全社的なコスト削減が実現します。

集中購買の事例

集中購買は、業種や規模を問わずさまざまな企業で導入されています。ここでは、自動車業界をはじめとした具体的な取り組み事例を紹介します。

トヨタを始めとする自動車業界における鋼板の集中購買の事例

論説「自動車用鋼板取引における集中購買システム」によると、自動車業界では、鋼板の集中購買を通じて大きなスケールメリットを得ています。トヨタをはじめとする自動車メーカーは、自社だけでなくグループ企業や部品メーカーが使用する鋼板まで一括で契約・購入する「集中購買システム」を構築しています。

 

自動車メーカーの事例では、グループ全体で使用する鋼板の約95%を集中購買しており、その調達量は自社使用分の約3倍に当たります。部品用鋼板まで含めた広範な調達により、交渉力と価格競争力を高めています。

〈自動車メーカーの集中購買事例〉

 

        1. グループ全体で使用する鋼板の95%を集中購買
        2. 市況価格と比較して、安価での鋼材の調達を実現

自動車業界における鋼材の集中購買システムの全体像は、次の5つのサブシステムに分類できます。

(なお、下記図表内における集購メーカーはいわゆる自動車部品メーカーを指します。)

        1. 鉄鋼メーカー(売り手企業)と自動車メーカー(買い手企業)
        2. 鉄鋼メーカー(売り手企業)と集購メーカー(買い手企業)
        3. 自動車メーカーと集購メーカー(買い手企業間)
        4. 鉄鋼メーカーと商社・コイルセンター(売り手企業間)
        5. 商社・コイルセンター(売り手企業)と自動車メーカー・集購メーカー(買い手企業)

 

集中購買システムは単一ルートではなく、複数のサブシステムからなる重層的な構造です。自動車メーカーはQCD(品質・コスト・納期)の最適化を図りつつ、グループ全体での原価低減を実現しています。

企業同士がアライアンスを結ぶ共同購買の事例

ここでは、共同購買の事例を2つ紹介します。

〈日産自動車とルノーによる共同購買の事例〉

企業間アライアンスによる共同購買の代表例として、日産とルノーが取り組んだ「RNPO(Renault Nissan Purchasing Organization)」があります。これは、2001年に両社が部品購買を統合・効率化する目的で設立した共同購買組織です。

 

日産の部品購買の中でも、最も規模が大きくシナジー効果を上げている「共同開発」について解説します。(下記内容は2005年3月に出版された論文「国際競争力強化に向けたルノー・日産におけるグローバル調達の多様化」を参考にしたものであり、最新の情報ではないことにご注意ください。)

RNPOで管理される共同購買は、まず見積依頼書(RFQ:Request for Quotation)をサプライヤーに配布し、以下5つの評価軸(QCDDM)で審査します。この評価結果で、最も高いサプライヤーが受注する流れです。

 

・品質(Quality)

・価格(Cost)

・納期(Delivery)

・開発能力(Development)

・経営状態(Management)

 

対象部品には、新規共同開発品と既存部品の共通化品があり、特徴は以下のとおりです。

新規共同開発品:
CCT(Cross Company Team)の横断チームが、プロジェクトごとに共通クライテリアを設定し、それに基づき調達先を決定します。

既存部品の共通化品:
既存部品の共通化では、次期部品のスペック策定に関わるため、既存サプライヤーのTier1・Tier2との調整を行います。

 

いずれの場合も、調達先はRNPOのサプライヤーパネルに登録された企業の中から、指名競争入札で選ばれます。入札時点では品質よりも価格を重視した評価が行われ、選定後はサプライヤーとの価格交渉や商品力向上に向けた交渉が続きます。

 

ただし、2023年9月の日刊工業新聞によると、ルノーと日産のアライアンス再構築に伴い、RNPOによる共同購買体制は現在解消されています。

〈コニカミノルタと富士フイルムビジネスイノベーションによる共同購買に向けた取り組みの事例〉

2025年1月設立の「グローバルプロキュアメントパートナーズ」は、複合機の原材料と部材の共同購買を担います。

 

事業内容は以下のとおりです。

 

・調達戦略の立案と各拠点への展開

・サプライヤーとの折衝や調達管理

・外部購入部品の品質・コスト・納期・環境対応を担保する調達サービス

 

出資比率は富士フイルムビジネスイノベーション75%、コニカミノルタ25%で、計192名が出向予定です。両社は複合機やプリンタ事業における協業を進めており、調達連携によって競争力の強化と業務効率化を図っています。

このように、共同購買は業界や企業規模を問わず、戦略的提携の一手段として活用が進められています。

まとめ

集中購買は、発注の集約によってコストと業務効率を最適化する手法です。ただし、運用にはリスクもあるため、適用品目や各拠点・部門の体制に応じて実行する必要があります。分散購買と併用することで、調達の柔軟性と安定性を高められます。発注を一元管理できるシステムも活用しながら、自社の購買体制を強化していきましょう。

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