VA活動(バリューアナリシス)は、製品やサービスの価値を向上させながら、コスト削減を実現する手法です。不要なコストを排除し、品質や機能を維持しながら効率化を図ることで、企業の競争力を強化できます。本記事では、VA活動の基本概念や成功事例を紹介し、具体的な活用方法について詳しく解説します。 VA活動(バリューアナリシス)とは? VA活動(バリューアナリシス)とは、製品やサービスの価値を向上させる手法です。品質を維持しつつ無駄なコストを排除し、競争力を高めます。この章では、VAの意味や特徴、VEとの違いについて解説していきます。 VAの意味 「価値分析(VA)」によると、VAとは、製品やサービスの機能を分析し、不要なコストを排除しながら最適な価値を生み出す手法です。単なるコスト削減ではなく、品質や性能を維持しながら効率化を図る目的があります。 VAの特徴は、特定の技術や知識を活用し、組織的に改善を進めることです。材料の見直しや設計の工夫を通じ、同じ機能をより低コストで実現する方法を探ります。その結果、企業は競争力を高め、持続的な成長を目指せます。 VAは1947年、GE社のL.D.マイルズによって開発されました。戦後の物資不足を背景に、限られた資源を有効活用する手段として生まれ、現在では主要企業の60%以上が採用しています。たとえば、アメリカ海軍はVAを導入し、3年間で800万ドルのコスト削減を達成しました。GE社では年間20万ドルの削減目標を設定し、過去10年間で数千万ドルのコスト削減を実現しています。 また、VAは自動車、建設、航空、電子機器など幅広い業界で活用され、アメリカだけでなく、ヨーロッパやアジア各国、日本企業にも導入が進んでいます。特に、自動車業界では部品の設計を見直し、コストを削減しながら性能を維持できた事例が多いです。建設業界では、代替材料の採用によりコスト削減と耐久性を同時に向上させるケースもあります。 VA活動により、品質や性能を維持しながら無駄を省くことで、企業の競争力を強化できます。政府機関にも導入され、経済効果をもたらす重要な施策として活用されています。 VAとVEの違い VA(Value Analysis)とVE(Value Engineering)は、どちらも製品やサービスの価値を高める手法です。一般的には同じ概念として扱われますが、トヨタ自動車によると、自動車業界では以下のようにフェーズによって使い分けられる場合があります。 VE(Value Engineering)価値工学 対象フェーズ:製品の設計から量産準備までのプロセス目的:機能とコストのバランスを最適化し、付加価値を高める活動例:設計の工夫、材料の選定、製造方法の見直し特徴:市場投入前にコスト削減を進め、競争力のある製品を開発する VA(Value Analysis)価値分析 対象フェーズ:量産開始後の製品に適用される目的:すでに市場に出ている製品に対し、さらなるコスト削減や価値向上を図る活動例:製造工程の効率化、代替材料の採用、部品の共通化特徴:既存製品の改善を継続し、長期的な収益性向上に貢献する VAとVEは、基本的に同じ目的を持つ手法ですが、自動車業界では適用フェーズが異なります。VEは設計段階でのコスト最適化に重点を置き、VAは量産後の製品改善に活用されています。 〈関連記事〉VEについてより詳しく知りたい方は下記ブログを確認ください。「VE(バリューエンジニアリング)とは?VEの意味と実践方法をわかりやすく解説」 VAの特徴 VAの特徴は、製品やサービスの「機能」に着目し、無駄なコストを排除しながら価値を最大化する点にあります。従来のコスト削減とは異なり、品質や性能を維持しつつ、組織的に改善する手法です。 VAでは、製品そのものではなく、その製品が果たす機能を評価します。たとえば、時計は「時刻を知る機能」、電球は「照明の機能」といった視点での分析が必要です。この考え方に基づき、最適な材料や設計を検討し、コスト削減と品質維持の両立を目指します。 また、VAは従来の固定概念や慣習にとらわれず、事実に基づいて改善策を導き出す姿勢が重要です。さらに、一時的なコスト削減ではなく、企業内の各部門が連携し、科学的手法を用いて改善を進める必要があります。 たとえば、製造業では設計、調達、生産の各部門が協力し、最適な素材や工程を検討します。より安価で性能の高い代替材料を採用したり、工程を簡素化したりすることで、コスト削減と品質維持の両立が可能です。また、サプライヤーとの連携も重要で、専門知識を活かした提案を受け入れることで、さらなる改善が見込めます。 VAは、機能本位の考え方を基に、組織的かつ継続的に改善を進める手法です。各部門の連携や外部との協力を通じて、企業の競争力向上とコスト最適化を実現します。 VAの実施方法 VA活動は、体系的な手順で実施されます。コスト削減だけでなく、品質や機能の最適化を図ることが目的です。本章では、VAの対象となる品目の選定方法や具体的な手順について解説します。 VAの対象 VAは、コスト削減や価値向上の余地が大きい品目を対象とします。企業の収益に大きな影響を与える品目を優先的に分析することが重要です。特に、コストが高すぎるものや、大量に使用されるもの、品質改善が必要なものが該当します。 VAの対象を決める具体的な観点は、以下の通りです。 〈コストが適正でないもの〉 ・機能に対してコストが高すぎる品目・他の品目にも適用できる成功事例があるもの・規格外で見直しが必要なもの・繰り返し大量に購入される品目 〈企業の収益に影響を与えるもの〉 ・原価率の高い品目(製造原価/売価の割合が高いもの)・価格の高い品目(ABC管理のA管理品目)・不良率の高い品目(品質の安定が求められるもの)・赤字製品(コスト削減が急務なもの) たとえば、自動車業界では「プレス部品の材料変更」がVAの適用例のひとつです。自動車の車体や部品は、強度を維持しながら軽量化を図る必要があります。鉄は安価ですが重量があり、アルミニウムは軽量ですが高価です。VAを活用することで、これらの材料のコストと性能のバランスを分析し、最適な代替材料を選定できます。 このように、VAを適用する対象を明確にし、最適な改善策を講じれば、コスト削減と価値向上の両立が可能です。企業はVAをうまく活用し、製品の競争力を高めながら、収益の向上を図ることが求められます。 VAの手順 「価値分析(VA)」をもとに弊社で作成 VAは、製品やサービスの価値を最大化するために、体系的な手順で進められます。VAの作業計画は、Heinritzの定説を用いるのが基本です。「価値分析(VA)」で紹介されている、VAの具体的な作業手順は以下の通りです。 〈VAの作業手順〉 準備 ・分析者、設計担当、購買担当が対象品目を選定し、分析の方向性を決定する。 評価の段階 ・機能、コスト、付帯コスト、使用量、業者情報などを収集し、分析対象品を確定する。 思索の段階 ・ブレーンストーミングを活用し、設計、製造方法、材料の代替案を幅広く考える。 ・価値テスト・比較分析を実施し、改善の可能性を探る。 分析の段階 ・提案された改善案を評価し、実行可能なものを選定する。 ・材料の適合性、入手可能性、コストの3要素を考慮しながら、最適な改善策を決定する。 業者との折衝の段階 ・業者の専門知識を活用し、技術的な実現可能性を検討する。 ・必要に応じて業者と連携し、コスト削減や品質向上につながる提案を取り入れる。 技術者との打合せの段階 ・選定した改善案について、技術者と詳細な打合せを行い、適合性を確認する まとめの段階 ・これまでの分析結果を整理し、最終提案を作成する。 ・価値テスト・比較分析を用いて、最適な解決策を決定する。 実行 ・改善策を試作または実施し、最終的な評価を行う。 VAは、段階的なアプローチを通じて、機能とコストの最適化を目指します。情報収集、改善案の検討、業者や技術者との連携を深めることで、より効率的なVAが実施できます。 VAによる改善案を立案するための手法 VAを効果的に実施するためには、複数の改善案を立案することが重要です。製品や部品の機能とコストのバランスを分析し、様々な視点から改善項目を検討します。本章では、「価値のテスト」「比較分析」「機能分析」などの手法を用いた、具体的なVAの進め方を紹介します。 価値のテスト 価値のテストとは、製品やサービスの機能とコストのバランスを評価し、無駄を排除するためのチェックです。GE社では、VAの効果を最大化するために、10項目の基準を採用しています。 具体的には、以下のようなチェックリストが活用されます。 No.評価項目チェック内容①使用価値の向上その製品の使用によって、期待する価値が高められるか。②コストと用途の適合性原価とその用途は適切に一致しているか。③形状の必要性その製品の形状すべてが本当に必要か。④代替手段の検討目的に適した、より安価な代替品はないか。⑤加工方法の最適化低コストで同じ機能を持つ部品を製造できないか。⑥標準化の可能性既存の標準品や外部業者の標準品で代替できないか。⑦生産設備の適正化使用量を考慮した適正な工具・設備で生産されているか。⑧コストの適正性材料費・労務費・間接費・利益は適正か。⑨供給業者の見直しより低コストで信頼できる業者は存在しないか。⑩購入価格の比較他の企業がより安く購入している例はないか。 出典:「価値分析(VA)」 「価値分析(VA)」では、このチェックリストを用いた自動車業界の事例が紹介されています。 たとえば、「形状の必要性」の観点では、金属部品の形状を簡素化することで加工時間を短縮し、材料費の削減が可能です。さらに、「標準化の可能性」では、外部業者の標準品を採用すれば、製造コストを抑えつつ、同等の性能を維持できます。 このように、価値のテストを適切に活用することで、製品の機能を損なうことなくコスト削減が可能です。企業ごとに適したチェックリストを作成し、継続的に活用することが、VAの効果を最大限に引き出す鍵となります。 比較分析 比較分析とは、類似品のコストや性能を比較し、異常値を発見してその原因を特定する手法です。この分析を通じて、コストと機能のバランスが取れた材料や部品を選定できます。 特に、単位重量・体積あたりのコストや、耐用年数、引張強さを比較することで、最適な素材の選択が可能です。また、形状の違いによるコスト差を評価すれば、より合理的な改善策を導き出せます。 〈比較分析の評価項目〉 単位重量当たりのコストの比較(材料の密度を考慮し、コスト効率を評価)単位体積当たりのコストの比較(材料の使用量に基づくコストを比較)引張強さとコストの比較(強度とコストのバランスを評価)耐用年数とコストの比較(長期間の使用におけるコスト効率を評価)形状による相違とコストの比較(加工のしやすさや材料の無駄を考慮) 出典:「価値分析(VA)」 たとえば、「価値分析(VA)」で紹介されている比較分析表を用いて、ある部品の重量とコストを比較すると、高価な材料を見つけられる場合があります。この特異点を分析することで、代替品の導入や標準化の推進が可能です。 また、比較分析は材料選定にも応用できます。たとえば、金属材料と樹脂材料の単位重量あたりのコストを比較し、必要な強度を確保しながらコストバランスの最適化が可能です。 このように、比較分析を活用することで、コストの異常値を特定し、改善策を導き出せます。VAの一環として定期的に比較分析し、継続的なコスト削減と価値向上を目指しましょう。 機能分析 機能分析とは、製品や部品が持つ機能を明確にし、最適なコストで実現する手法です。まず「この品物は何をするものか?」を定義し、基本機能と補助機能を整理します。その上で、代替案を検討し、最適なコストと品質のバランスを見つけることが重要です。 ここでは「価値分析(VA)」で紹介されている機能分析により、従来の1/4のコストダウンに成功した事例を解説します。 出典:「価値分析(VA)」 上図の部品は、鋼の角材を削り出し、穴を開けてタップ加工したもので、価格は120円です。この部品の基本機能は「ナットを固定すること」であり、補助機能として「レンチを使わず締め付け可能」「ナットの緩み防止」があります。 そこで、機能を維持しつつコスト削減を図るために、以下のような代替案が検討されました。 〈機能分析による代替案〉 2個のナットの側面と側面を溶接する2個のナットを1本のワイヤに溶接する2個のナットを1枚の金属板に溶接する2個のナットを1枚の金属板の二つの穴に圧入 比較検討の結果、ナットを金属板に溶接する案が採用され、同じ機能を維持しながらコストを30円まで削減できました。これは従来の1/4のコストに相当します。 このように機能分析を活用すれば、不要なコスト削減が可能です。基本機能と補助機能を明確にし、代替案を検討することで、コストと品質のバランスを最適化できます。 VAの事例 VAの事例では、工法の変更や材料の最適化により、大幅なコストダウンが実現されています。本章では、自動車部品の鍛造工法転換や、めっき技術の変更によるVAの成功事例を紹介します。 自動車用ステアリング部品のカムの鍛造工法転換によるコストダウン 鍛造工法転換によるコストダウンを実現した自動車用ステアリング部品のVA・VEの事例を紹介します。従来の熱間鍛造のみの工法から、熱間鍛造+冷間ローリングへ転換したことで、大幅なコストダウンを実現し、材料の歩留まりを向上させた成功例です。従来の熱間鍛造は、成形後に大幅な削り代が発生し、材料コストが高くなる課題がありました。そこで、冷間ローリング(ロール成形)を組み合わせることで、精度向上とコスト削減を両立し、加工レス・スクラップレスを実現した事例です。冷間ローリングは成形工法の一種であり、高い生産性と安定した品質を確保できるメリットがあります。 コストダウンを実現する4つの要因のうち、以下の②、③を実現しました。 〈コストダウンを実現する要因〉 ①リードタイムの短縮②材料コストの低減(スクラップレスにより無駄を削減)③加工コストの低減(削り代を減らし、加工時間を短縮)④不良品率の低減 結果として、無駄な材料使用を削減し、高精度なカムの製造が可能となりました。さらに、工程歩留まりが向上し、生産効率の改善も実現しています。 本事例のように、従来の工法を見直すことで、コスト削減と品質向上の両立が可能です。自動車部品の量産においても、最適な工法を選択し、継続的な改善が鍵となります。 めっき手法の変更によるコストダウン めっきおよび表面処理技術を活用したコストダウンの事例を紹介します。ここでは「スズめっきからソルダブルニッケルめっきへの変更」と「6価クロムからバレル三価クロムめっきへの変更」による成功例です。 従来のめっき手法では、コストが高く、ウィスカ*¹の発生や治具の使用による課題がありました。そこで、新たなめっき技術を採用し、より効率的でコストパフォーマンスの高い方法を導入しています。(*¹ウィスカ:めっき表面に発生する微細な金属突起で、電子部品のショートの原因となる) 事例1:スズめっきからソルダブルニッケルめっきへの変更 〈課題〉 亜鉛ダイカスト素材のケース内にプリント基板をはんだ付けするため、従来は銅めっき+ニッケルめっき+スズめっきを使用していました。コストが高く、ウィスカ発生のリスクがありました。 〈改善策〉 ソルダブルニッケルめっきを実施した結果、スズめっきと同等のはんだ付け強度を確保し、コスト低減とウィスカ発生防止を実現しました。 〈結果〉 ・コスト低減と品質向上を同時に達成。 ・試作・評価の結果、量産に適用。 事例2:6価クロムからバレル三価クロムめっきへの変更 〈課題〉 小型のアルミ切削部品(A5052)に、治具を用いたニッケル+装飾クロム(6価クロム)めっきを施していたが、コストが高く、治具の接点跡が残る問題がありました。 〈改善策〉 バレルニッケルめっき+バレル三価クロムめっきを導入し、治具を使用せず加工することで、コスト削減と品質向上を実現しました。 〈結果〉 ・仕様変更によりコスト低減を実現。 ・治具の接点跡がなくなり、製品品質が向上。 これらの事例のように、コスト削減だけでなく、品質向上や生産効率の向上にも繋がります。適切なVA活動を実施すれば、新たな視点からコストダウンや品質改善の機会を見出せます。 まとめ VA活動は、コスト削減と価値向上を両立する有効な手法です。適切な分析と改善策を講じることで、品質を維持しながら効率的なコスト削減が可能になります。また、価値のテストや比較分析、機能分析などの手法を用いることで、改善策を導き出せます。VAの実施を通じて、競争力の向上と持続的な成長を目指しましょう。 投稿者プロフィール A1A編集部 A1Aブログは製造業向け調達データプラットフォーム「UPCYCLE」を提供するA1A株式会社が運営するメディアです。製造業の調達購買業務に役立つ情報を発信しています。 最新の投稿 2025年4月23日調達戦略の構成とフレームワークを紹介 2025年4月17日原価企画とは?原価企画の意味と進め方を解説 2025年4月3日開発購買に求められるスキルを分かりやすく紹介 2025年3月28日サプライヤー評価の基準・項目を紹介 ダウンロード可能なサプライヤー評価シート付き