コストテーブルとは?コストテーブルの種類や作り方を分かりやすく解説

製造業において、適切なコスト管理は利益確保の鍵を握ります。そのために欠かせないのが「コストテーブル」です。しかし、「コストテーブルとは具体的に何か?」と疑問に思う方も多いでしょう。本記事では、コストテーブルの基本概念から種類、実際の作り方までを分かりやすく解説します。

 

コストテーブルとは

コストテーブルとは、製品や部品ごとの原価構成を体系的に整理し、コスト要素を可視化するための表です。製造業においては、原材料費、加工費、労務費などの要素を分解し、コストの内訳を明確にするために活用されます。

 

この表を作成することで、コスト構造の分析が容易になり、価格交渉やコスト削減の戦略立案に役立ちます。例えば、特定の材料や工程が全体コストにどの程度影響を与えているのかを把握し、最適な調達先の選定や製造プロセスの改善に活かすことが可能です。

 

コストテーブルを簡単に説明すると以下の通りとなります。

 

定義:製品や部品の原価構成を「見える化」するための表。

 

目的コスト要素の把握、コスト削減・価格交渉・調達判断に役立てる。

 

重要性:データに基づいた客観的な分析が可能となり、利益最大化と競争力の強化に貢献できる

 

それぞれを詳しく解説していきます。

 

コストテーブルの定義

購買のためのコストテーブルによるとコストテーブルとは、コストを決定するためのモノサシ(標準)です。つまり、製造業におけるコスト削減活動を効果的に進めるための基盤となるデータです。

 

コスト管理を適切に行うためには、各部門の協力や正確な情報の共有が欠かせません。コストテーブルを活用することで、価格の妥当性を誰でも簡単に評価することが可能になります。

 

コストテーブルは製品の製造プロセス全体を分析し、費用構造を明確にすることで、価格決定だけでなく、作業方法の見直しや工程改善の指標としても活用されます。

 

また、新コストテーブルによると、コストテーブルの定義は、「原価に影響を与える要因と原価との関係を整理したもの」「どのようなものがいくらの表」です。このテーブルは、表形式やグラフ、計算式を活用して作成されることが一般的で、特にコスト要因(変数・コストドライバー)を明確にすることが特徴です。

 

「コスト」という言葉は、英語の”cost”または”purchase cost”を意味し、日本語では費用(cost)としても使われます。一方、「テーブル」は単なる表としての役割にとどまらず、異なる視点でデータを分析し、意思決定を支援するツールとしての意味も持ちます。

 

コストテーブルの目的

コストテーブルの目的は、購買のためのコストテーブルによると、機能設計、生産設計、製造、調達・購買の各プロセスにおいて、コスト要因を明確にし、最適なコスト構造を実現することにあります。以下に各プロセスにわけて詳しく解説します。

 

1.機能設計のためのコストテーブル
機能設計において、同じ機能を持つ製品を最小コストで実現するために使用されるコストテーブルです。特性、性能、寿命、操作性などの機能要件に対し、VE(バリューエンジニアリング)の情報や作業性のコストデータを整理します。


例えば、下図のようなブロー成形用材料の選択基準を活用することで、適切な材料を選定し、コストと機能のバランスを最適化することができます。

出典:購買のためのコストテーブル

2.生産設計のためのコストテーブル
設計段階において、材料の仕様、形状、加工精度によってコストが大きく変動するため、それらの情報をテーブル化し、設計時に容易に参照できるようにします。


具体的には原材料の特性、入手状況、価格といった要素を整理し、最適な設計を支援します。例えば、下図のように部品の重量から簡易的に見積もりを行う方法を活用することで、設計段階でのコスト試算の効率化を図ることが可能です。

3.製造のためのコストテーブル
同じ製品を製造する場合でも、製造方法が異なればコストに大きな差が生じます。そのため、生産数量、作業方法、標準時間などの要素を考慮したコストテーブルを作成し、最適な製造方法の決定に役立てます。

 

例えば、下図ようにコストテーブルを活用することで、製造工程ごとのコスト比較が可能になり、最も効率的な生産プロセスを選択できます。

4.調達・購買のためのコストテーブル
調達・購買部門では、より円滑かつ根拠に基づく調達を行うためにコストテーブルを作成します。特に、データに基づいた客観的な分析を実施し、戦略の立案や適正価格での調達を実現することが目的です。以下が用途例です。

a. 組織内で共通したモノサシを持つことで価格査定業務を効率化する。

 

b. 設計段階での自社査定をする。

 

c. サプライヤーの見積内容と比較する。

 

d. サプライヤーのコスト改善余地を発掘する。

 

e. サプライヤー指導の際の資料として活用する。

下図のようにブロー成形機の条件ごとのマンレートとマシンレートを示した表を活用することで、異なる条件でのコスト比較が可能になり、調達購買戦略の策定に役立ちます。

コストテーブルの重要性

コストテーブルは、製造業におけるコスト管理の精度を高め、経営の意思決定を支援する重要なツールです。各製品のコスト構造を詳細に分析し、無駄なコストを排除することで、企業の利益最大化と競争力の強化を実現できます。

 

また、サプライチェーン全体のコストを把握し、調達や生産の最適化を図ることが可能になります。ここでは、コストテーブルの重要性について、具体的な観点から説明します。

 

1.原価管理の効率化
コストテーブルを活用することで、各製品のコスト構造が明確になり、不要なコストを削減するための具体的な戦略を立てることができます

        1. コスト構造の可視化:各工程や部品ごとのコストを明確にし、コスト削減のポイントを特定できる。

        2. 原価の変動要因の特定:材料費の変動や製造プロセスの違いによるコスト変動を分析し、コスト削減に向けた戦略を立てられる。

        3. 予算管理とコスト計画の精度向上:データに基づいた正確な予算管理が可能となる。

このように、原価管理を体系的に行うことで、適正なコストを維持しながら企業の収益性を高めることが可能です。

2.利益率の向上
コストテーブルを利用することで、製品ごとの収益性を分析し、利益率の向上を図ることができます。

        1. 製品ごとの利益率の把握:不採算製品を特定、見極めが可能になる。

           

        2. 原材料や製造プロセスの変更による影響測定:低コストな代替材料や効率的な製造方法の導入による利益率改善をシミュレーションできる。

           

        3. 適正価格の設定:市場価格や競争環境を考慮しつつ、利益を確保できる価格を設定できる。

 

特に、競争が激しい市場では、利益率を維持しながらコストを最適化することが重要です。コストテーブルを活用すれば、利益率を最大化するためのデータドリブンな戦略を立案できます。

3.意思決定の迅速化と精度向上
経営の意思決定を迅速かつ正確に行うためには、信頼できるデータの活用が不可欠です。コストテーブルは、そのための強力な支援ツールとなります。

        1. 新規プロジェクトや製品開発時のコスト試算:開発初期の段階でコストを精密に予測することにより、正確なコストに関する情報をプロジェクトに提供できる。

           

        2. 価格交渉やサプライチェーン管理の強化:サプライヤーとの交渉時に、根拠のある価格を提示し、有利な条件で取引を進められる。

           

        3. 意思決定の支援:予測データをもとに、迅速かつ合理的な判断ができる。

           

特に、グローバル市場では価格変動や供給リスクが常に発生します。コストテーブルを活用することで、変化に即応できる強い調達基盤を築くことができます。

コストテーブルの種類

新コストテーブルによると、コストテーブルの種類は用途に応じて以下の4種類に分類されます。

コストテーブルの種類

主な用途

メリット

デメリット

①単位当たりの単価表

単価比較・簡易的な見積査定の基礎情報

簡単に比較できる

品質・仕様の違いを反映しづらい

②コスト見積比較表

サプライヤー見積の比較、交渉時の根拠資料

見積内容を可視化できる

設備差などの背景要因を考慮しにくい場合がある

③回帰分析型

データに基づく客観的なコスト予測・価格算定

データから客観的に分析できる

回帰モデルの精度や十分なデータ量が必要

④原価積算型

外注品の詳細な見積根拠提示、製造原価の算出

詳細な根拠を提示しやすい

作成に専門的な技術知識が必要

ここでは、それぞれがどのような場面に適しているのかを詳しく解説します。

 

①単位当たりの単価表

単位当たりの単価表(unit price list)は、重量や容量、長さなどの単位ごとのコストを整理したものです。単純な形式ながら、コストの把握や見積もり査定に役立つ情報を提供します。例えば、「時間当たりの単価(円/時間)」や「プレス加工のワンパンチ当たりの単価(円/プレス)」といった形でデータを整理することで、コストの比較が容易になります。

 

しかし、対象物の仕様やグレード、品質によって価格に差が生じるため、正確な見積もりを行うには、詳細なデータを層別で整理することが必要です。例えば、鋼材や樹脂の中にも様々な材質やグレードの違いがあり、それぞれの単価が異なります。

 

また、販売側から見れば、定価や掛け率を示す単価表として使用され、交渉によって決定された価格を一覧化した「価格テーブル」としても機能します。

②コスト見積比較表

コスト見積比較表(BMS:Benchmarking sheet、競合の見える化)は、サプライヤーの各見積もりの内容を項目ごとに比較分析するものです。競争力のある価格を確保するために最適な選択を可能にします。

 

この表を活用することで、複数のサプライヤーの見積もりを並べて比較し、各項目ごとの価格差やコスト構造の違いを明確にできます。ただし、「良いとこ取り」の寄せ集めでは交渉がうまく進まないこともあるため、設備機械の違いや管理手法の違いを考慮しながら判断することが重要です。

 

この比較分析によって、見積もりの妥当性を評価し、サプライヤーとの価格交渉を有利に進めることができます。また、コストテーブルの課題を浮き彫りにする効果もあり、コスト改善のポイントを見つけるのにも役立ちます。

 

一方で、コスト見積比較表は複雑な加工品やAssy品になると、比較表作成だけで膨大な工数が発生してしまいます。

製造業型調達データプラットフォーム「UPCYCLE」を用いると、複雑な直接材の見積書でもファイルをシステムにアップロードするだけで簡単に比較表を作成することが可能です。リソースが限られている調達購買部門においては、このようなツールを用いて、効率的にコストテーブルを活用した業務を行うことが今後、ますます重要になってきます。

③回帰分析型コストテーブル

回帰分析型コストテーブル(regression analysis)は、コストに影響を与える要因(コストドライバー)と原価の関係を回帰分析を用いて整理したものです。一般的には購入実績データをもとに作成されますが、市販製品だけでなく、外注加工品にも適用できます。

 

この手法では、購入実績データをもとに回帰分析を用いた予測モデルを構築します。例えば、特定の部品の直径や重量と価格の関係を回帰グラフで可視化し、新規部品のコスト予測に活用できます。Excelや表計算ソフトを利用することで、容易に作成・活用が可能です。

 

回帰分析により、数式を用いたコスト予測が可能になり、変数とグラフを併用することで視覚的にも分かりやすくなります。これにより、価格の相関関係や傾向を明確に把握でき、より合理的な価格設定やコスト分析が可能になります。

④原価積算型コストテーブル

原価積算型コストテーブル(cost accounting)は、外注する際に発生するコストと利益を考慮し、目標価格を設定して交渉に用いるための表です。特に、外注品の多くで使用され、コスト見積もりの根拠となります。

 

このテーブルを活用することで、仕様書や図面の読み解きとコストの関係を整理し、適正なコスト管理を行うことができます。しかし、活用には製造技術や生産管理の知識、現場の加工工程に関する十分な理解が求められます。そのため、コストテーブルの精度を高めるためには、実際の製造現場を訪れ、サプライヤーと協力しながらデータを収集することが重要です。

 

また、交渉においては、価格の妥当性を示す根拠として活用され、サプライヤーとの適正な価格決定を支援します。原価積算型コストテーブルは、コストの詳細な分析を可能にし、価格決定の合理性を高めるために欠かせないツールと言えます。

調達・購買部門におけるコストテーブルの使い方

調達・購買部門において、コストテーブルは単なる価格管理のツールではなく、調達業務全体を最適化し、企業の競争力を高める役割を果たします。本章では、調達戦略の3つの重要な視点に基づき、コストテーブルの活用方法を解説します。

 

品質・納期・数量と整合性のあるコストの実現

調達の基本である品質(Q)、コスト(C)、納期(D)、数量(Q)のバランスを最適化し、調達業務の効率を高めます。

PDCAによるアプローチ

・Plan(計画)

営業、開発、品質管理、企画部門などの要求内容を整理し、QCDQの基準を明確化する。

・Do(実行)

サプライヤーの実績をデータ化し、QCDQの基準との整合性をチェックする。

・Check(評価)

仕入れた部品や製品の品質・納期・コスト・数量が要求基準と一致しているかを評価する。

・Action(改善)

乖離が発生した要因を分析し、調達元やサプライヤーの改善策を策定する。

メリット

・QCDQの基準を明確にし、適正なコストで調達が可能となる。

 ・価格の透明性が向上し、交渉の根拠が強化される。

・継続的なデータ管理により、調達リスクの低減ができる。

コストの変数と定数を踏まえた機会損失の防止と改善活動

コストの可変領域(削減可能なコスト)と不変領域(削減が困難なコスト)を見極め、適切なコスト管理を行います。

PDCAによるアプローチ

・Plan(計画)

コスト削減が可能な箇所と難しい箇所を切り分けることで、注力するべき箇所を明確化する。

・Do(実行)

三現主義と技術力で削減可能なコストの改善に取り組む。

・Check(評価)

コスト削減の機会損失を未然防止することを前提に、役割や実態を評価する。

・Action(改善)

成果が出た施策を標準化し、体制強化を実施する。

メリット

・削減可能なコストと削減が難しいコストを明確にできる。

 ・コストの最適化を進め、利益率の向上につながる。

サプライヤー企業との協業の促進

サプライヤーとの協業関係を強化し、持続可能な調達基盤を確立します。

PDCAによるアプローチ

・Plan(計画)

サプライヤーとの協業のため、GIVE政策(メリット提供)とTAKE政策(情報共有)を定義する。

期待する取引内容や協業のレベルを設定し、サプライヤーと共有する。

・Do(実行)

コストテーブルを活用し、見積もり・査定・発注プロセスを合理化する。

サプライヤーの業務効率を阻害する内容を共有する。

・Check(評価)

QCDQの評価基準をもとに、サプライヤーの業務効率と成果を評価する。

・Action(改善)

評価内容をもとに、改善施策を実施し、サプライヤーへのフィードバックを行う。

長期的な取引を見据え、サプライヤーの競争力強化を支援する。

メリット

・サプライヤーとの関係を強化し、長期的な安定調達を実現する。

 ・協業を通じて、より高品質・低コストな調達が可能となる。

 ・透明性のある取引を推進し、GIVE&TAKEで相互成長を促進する。

 

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コストの物差しを得よ!メーカー調達部門のためのコストテーブル略解 ①入門編

 

コストの物差しを得よ!メーカー調達部門のためのコストテーブル略解 ②実践編



コストテーブルの作り方

製造業では購買費が製造原価の大部分を占めるため、適切なコストテーブルの作成がコスト削減の鍵を握ります。本章では、購買のためのコストテーブルをもとにコストテーブルの作り方を解説し、その導入によるビジネス的メリットについて紹介します。

作成対象部品の決定

コストテーブルを作成する際、最初に決定すべきは対象となる部品です。以下の基準で選定すると、最大限の効果を得られます。

 

    1. 取引額の大きな部品:購買費の中で大きな割合を占める部品を優先する。

    2. 生産量の多い部品:大量生産される部品は、コストテーブルの効果が大きい。

    3. 生産方法が共通・安定している部品:製造工程の変動が少なく標準化しやすい部品が適切。

 

これにより、限られたリソースで最大限のコスト削減効果を得ることができます。



予備調査

次に、対象部品とその製造工程について詳細な情報を収集します。具体的には、以下の項目を調査します。

 

・対象部品の機能

・生産量

・加工工程

・材料費・部品価格の概要

・発注先サプライヤーの能力・特性

 

この調査を通じて、コスト削減のための課題や改善の方向性を明確にできます。

調査対象工場の決定

対象部品を製造する工場をリストアップし、発注数量の多いサプライヤーを上位から数社調査対象とします。ただし、発注量が少なくても管理面や技術力で優れた工場は調査対象に加えます。

現状調査

発注先工場の現状と自社の現状、情勢等と比較しながら問題点を把握する。この調査によって、非効率なプロセスやコストが過大な部分を特定できます。

標準の設定

コストテーブルの核心となるのが標準の設定です。特に、以下の要素を明確に定義することが重要です。同一部品でも製造方法の異なる場合は特に、要求される材料・仕様・精度、生産数量などから最も経済的な製造方法を決定します。

・材料費

材質、材料取り、歩留まり、リサイクル状況、購入価格実績

・加工費

加工機械別の加工費レート

作業工程、使用設備、治工具、直接・間接作業(マンレート)、作業条件

標準時間

正味時間、余裕、能率

・労務費

賃金基本調査を参考に、自社・発注先の実績から算出

・製造間接費

・管理費・利益

これにより、科学的かつ合理的な購買価格の基準が確立されます。

定期的なメンテナンス

コストテーブルは一度作成したら終わりではありません。市場環境の変化や技術革新に対応するため、定期的な見直しと更新が必要です。特に以下の点をチェックし、必要に応じて改定します。

・材料価格の変動

 

・生産技術の進化

 

・新たなサプライヤーの出現

まとめ

コストテーブルの導入によって、以下のようなメリットが得られます。

・コスト削減の実現

科学的根拠に基づくコスト分析により、不必要なコストを削減できる。

・価格交渉力の向上

サプライヤーとの交渉時に、客観的なコストデータを活用できる。

・購買戦略の精度向上

データに基づいた意思決定が可能になり、調達リスクを低減できる。

企業全体の利益向上

コスト削減の成果がダイレクトに利益に反映され、企業の競争力が強化される。

 

コストテーブルは、戦略的な購買管理に欠かせないツールです。適切な対象部品を選定し、詳細な調査を行い、標準化されたデータを基に運用することで、コスト削減と価格交渉力の向上が期待できます。

 

さらに、定期的なメンテナンスを行うことで、常に最新の市場環境に適応し、企業の競争力を維持・向上させることができます。コストテーブルの導入を通じて、より合理的かつ戦略的な購買管理を実現しましょう。

投稿者プロフィール

A1A編集部
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